第46話 力試し


 それから数日後、俺はリリナとアリシャと共に近くの森に来ていた。


「アリシャ、本当にもう怪我は大丈夫なのか?」


「はい。もう体の痛みもありません」


 アリシャはそう言うと、俺の隣でニコッと笑みを浮かべる。


 その表情が嘘を吐いているようには見えなかったので、俺は胸をなでおろす。


 ……後に残るような傷もないみたいだし、本当に良かった。


 俺が安どのため息を漏らすと、アリシャは微かに顔を俯かせる。


「ただ、ローアたちの傷はまだ治っていないみたいでして、ケインさんとの戦いに参加できるかも怪しいです。力になれず、申し訳ありません」


 アリシャはそう言うと、申し訳なさそうに眉を下げて頭を下げる。


 俺は慌てて手を横に振ってから、アリシャに頭を上げさせる。


「いや、いいんだよ。アリシャがいてくれるだけでも十分だ」


「そう言ってもらえると嬉しいです。ロイドさまの期待に応えるためにも、今日は頑張らないとですね」


 アリシャは口元に手を置いてそう言うと、微かに微笑む。


 ……こうして話してみると、アリシャって随分と落ち着いているんだな。


 確か、年齢的にはリリナと近いはずなのに、凄い大人びて見える。


「ロイドさま、ロイドさまっ」


 俺がそんなことを考えていると、俺の隣でリリナが俺の服の裾をくいくいっと引っ張る。


 ちらっとそちらを見てみると、リリナが不安げな顔で俺を見上げている。


「どうした?」


「わ、私もいますからね。私にも期待して欲しいです」


 リリナはそう言うと、銀色の耳をピコピコと動かす。


 急にどうしたのだろうと思ったところで、俺はふとこのアニメのことを思い出す。


 ……そういえば、アニメでもケインが他のヒロインと話していると、構って欲しそうにしていたシーンがあったな。


 俺はアニメのシーンと今の状況が重なって見えたことに、笑みを漏らす。


「もちろん、期待しているぞ。リリナなしで戦うのは無理だと思ってる」


「ほ、本当ですか?! にへへっ、そんなこと言われたら余計に頑張っちゃいます」


 リリナはそう言うと、ご機嫌そうに尻尾をブンブンと振る。


 俺がそのまま頭を撫でてあげると、リリナは緩んだにへらっとした笑みを浮かべていた。


「……」


「ん?」


 すると、今度はアリシャが俺のことをじっと見ていた。


 俺が気づいて視線をアリシャに向けると、アリシャは慌てたように俺から目を逸らす。


「い、いえ、私は色々終わってからで大丈夫です」


「終わってから?」


 ……一体、何が大丈夫なのだろうか?


 俺はアリシャが微かに頬を朱色に染めた理由が分からず、首を傾げる。


 俺がある程度リリナの頭を撫でてから手を離すと、リリナは耳をピンッと立てた状態で俺を見る。


「ロイドさま、今日はそんなに森の奥までは行かないんですよね?」


「ああ。今日はあくまでアリシャの力を見るために来ただけだからな。数日後に勝負もあるし、そこまで奥までは行かないでいいかな」


 俺はそう言ってから、また視線をアリシャに向ける。


 アリシャは俺と目が合うと、深くこくんと頷く。


 なんとなくだが、アニメで現時点のアリシャの実力というのは把握している。


 それでも、実際にアリシャの実力をこの目で見てみたいと思った。


 そう思ったのも、魔法の才に長けたアリシャだが、一つだけ欠点があるからだ。


 リリナと同じく、ケインの『支援』がない状態で戦うためには、その欠点を補うことは難しい。


そうなってくると、アリシャもリリナのようにアニメとは違う戦い方をしてもらう必要がある。


 そこら辺も含めて、色々と確認したいことがあるのだ。


 俺がそんなことを考えていると、茂みの中で猪のような魔物がもそっと出てきた。


 俺はその魔物を見て、頷いてからアリシャを見る。


「そうだな。とりあえず、魔法であの魔物を倒してもらおうか」


「分かりました。お任せください」


 アリシャが両方の手のひらを魔物に向けると、魔物も殺気を感じたのかアリシャの方を向く。


 さて、現時点のアリシャの実力がどれほどのものなのか、見ものだな。


 俺はそんなことを考えて、アリシャと魔物の戦いを見守るのだった。

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