追放系の悪役パーティのリーダーに転生したので、ざまぁされる前に自分を追放しました。～スキルを奪う『スティール』って悪役過ぎるけど強すぎる～

第32話 ヒロインのヒーロー

「ロイドさま！　ロイドさまの気が変わらないうちに、手続きを済ませちゃいましょう！」

　リリナはケインたちがいなくなるなり、思い出したようにそう言って俺に抱きついてきた。

　どうやら、俺がケインにリリナをパーティメンバーだと言ったことが、相当嬉しかったらしい。

　リリナの銀色の耳も尻尾もご機嫌そうにピコピコ、ブンブンと動き回っている。

　俺は最後の確認をするため、アニメで見たロイドのような悪者顔で笑う。

「言っておくが、俺とパーティを組んだら、かなり生きづらくなると思うぞ。俺は街中の嫌われ者だからな。それでもいいというのなら――」

「はい、喜んでご一緒します！」

「いや、少しは考えてから返答してくれよ」

　リリナは俺にニコニコ笑顔を向けながら、食い気味でそんな言葉を口にする。

　そして、リリナは微かに頬を赤らめてから、俺を見上げて言葉を続ける。

「ずっと一緒にいますよ、ロイドさま」

「っ」

　俺はリリナのまっすぐ過ぎる言葉を前に、思わず鼓動を速まらせる。

　……さすが、このアニメのヒロインだ。

　言葉回しとか、ふと見せる表情にドキリとさせられてしまう。

「ロイドさま？　顔が少し赤いみたいですけど」

「き、気のせいだ。何も問題はない」

　俺がリリナを体から離そうとリリナの肩に手を置くと、リリナは抱きしめ返されたと勘違いしたのか、にへらっと緩んだ笑みを浮かべる。

「にへへっ♪」

　……無自覚の破壊力って恐ろしい。

　俺は顔を埋めてきたリリナの肩をぽんぽんっと叩いて、冒険者ギルドのカウンターを指さす。

「ほら、手続きを済ませるんだろ？　早くいこうぜ」

「そうでした！　ロイドさま、早くいきましょう！」

　俺が声を少し上擦らせてそう言うと、リリナはハッと思い出したような反応をしてから、俺から離れる。

　俺はコロコロ変わるリリナの表情に笑みを浮かべてから、リリナを連れて冒険者ギルドのカウンターに向かった。

　すると、そこには以前に冒険者ランクの件でお世話になったレミさんがいた。

「すみません。パーティの申請をお願いしたいんですけど」

「え、パーティの申請ですか？」

　レミさんはちらっと俺の隣にいるリリナを見て、眉を下げる。

　レミさんは何か言いたそうな顔を俺に向けてから、視線をリリナに戻す。

「えーと、お嬢ちゃん。本当にロイドさんとパーティを組みたいの？」

「？　はい、そうですけど」

　リリナはレミさんの言葉の意味が分からなかったのか、可愛らしく首を傾げる。

　まぁ、何が言いたのかは大体想像つくけどな。

　レミさんは再び細めた目を俺に向けてから、リリナに耳打ちをする。

「ロイドさんに弱み握られたり、騙されたりしてない？　無理やり連れてこられたりとか、強要されたりとか」

　俺はがっつり聞こえる悪口を前に、顔を引きつらせる。

　まぁ、でも、普通はそう考えるか。

　街中から嫌われているロイドが誰かとパーティを組んでもらえるはずがない。

　もしもパーティを組めるとしたら、それは普通じゃないことをして連れてきた以外に考えられない。

　冒険者ギルドの職員としては、止めるのが普通だよな。

　俺がそんなことを考えていると、リリナがレミさんから距離を取った。

「ロイドさまを悪く言うのはやめてください」

　それから、リリナはレミさんのことを睨む。

「え？　いやいや！　ロイドさんを悪く言ったというか、一般的な話をしてるだけで――ん？　ロイドさま？」

　レミさんは想定外の反応にあわあわとしてから、首を傾げる。

　すると、リリナがカウンターに身を乗り出して、キッとレミさんをさらに強く睨む。

「ロイドさまは私の命の恩人です！　初めて会った私に無償で高額のポーションをくれたり、病の母のために危険な魔物と戦ってくれたり、本当に優しい人なんです！　そんな私のヒーローを悪く言わないで！！」

　リリナの声は冒険者ギルド中に響き、一瞬シンっと冒険者ギルドの中が静まり返る。

……主人公の次は、ヒーローときたか。

　ちらっと辺りを見てみると、全員信じられないものを見る目で俺たちのことを見ていた。

　そりゃ、ロイドのことを知ってる連中からしたら信じられない言葉だろうな。

　改めて考えてみると、アニメで知っているロイドが取るような行動ではないよな。

　うん、驚かない方がおかしい。

「リリナ、落ち着いてくれ。俺は大丈夫だから、な？」

　俺はリリナの頭を撫でて、リリナを落ち着かせる。

「……ロイドさんが人助けを？」

　レミさんはリリナの言葉を聞いて、信じられないものを見るような目を俺に向ける。

　まぁ、そういう反応にもなるか。逆だったら、俺も同じような反応をするだろうな。

　俺は小さくため息を漏らしてから、レミさんに視線を戻す。

「レミさん。そういうわけなんで、パーティの申請をお願いします」

「わ、分かりました」

　やけに静かになってしまった冒険者ギルドの中で、レミさんが動く音だけが響いていた。

　他の冒険者たちもずっと俺たちのことを見ているし、とても気まずい空気だ。

　俺は頬を掻いてから、気まずさを紛らわすように口を開く。

「そういえば、近くの森の魔物たちがおかしかったですよ。森の上の方には本来ないはずの魔物たちがいましたね。下の方にも魔物がわんさかいました」

「え？　最近、森に行ったんですか？」

「ええ、ちょっと用があって森のてっぺんまで。数日であんなに森に棲む魔物の生態が変わるものなんですかね？」

　俺が世間話をするように森の出来事を報告すると、レミさんの動きがぴたりと止まった。

　そして、何かに葛藤するような表情で俺をじっと見る。

「レミさん？」

　あれ？　俺変なこと言ったかな？

「ロイドさん、少しだけお時間いいですか？」

「え？　はい、大丈夫ですけど」

　意を決したようなレミさんの言葉に、俺は小さく頷く。

　冒険者ギルドの職員が、ロイドに話？

　まるで想像ができない展開を前に、俺は眉をひそめるのだった。

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