第31話 変わった主人公、ケイン
「ロイド、噂は聞いてるぜ。随分と落ちたみたいだなぁ。自慢の装飾品はどうしたよ?」
ケインはにやにやと笑みを浮かべながら、俺を見下すようにそう言う。
ツンツンで上げられた髪も相まって、アニメのロイドの姿と今のケインの姿が重なって見える。
「売ったんだよ。金が必要でな」
「アッハッハッ! そうか! ソロのC級冒険者じゃ、前みたいな生活はできないよなぁ!」
ケインが高笑いをしながら隣にいるエミとレナに話を振ると、二人も同じように声を出して笑う。
そして、エミとレナは俺を見上げてから順々に口を開く。
「ロイドさん、貯金とかできませんもんね。装飾品を売った金もすぐに使ってしまったんでしょうね」
「冒険者としてランクが落ちただけじゃなくて、男としても終わったわね。アンタ」
そんなことを言いながら、二人はより一層強くケインに腕を絡めていた。
二人に体を寄せられて、ケインは俺に自慢をするようにニヤリとした笑みを浮かべる。
別に、エミもレナも元々ロイドの女って訳じゃないのだが、ケインからしたら奪ってやったという感じなのだろうか?
……それにしても、こいつ本当に俺の知ってるアニメの主人公だよな?
主人公らしさはどこに置いてきたんだよ。
「なぁ、ケイン。何があったんだ? 色々と変わり過ぎてないか?」
「あぁ? 別に何も変わってないだろ」
俺が思わず気になって聞いてみると、ケインはバツが悪そうに俺から顔を背ける。
いや、さすがに何も変わっていないは無理があるだろ。
「ん?」
俺がそんなことを考えていると、ぼろい服を着た一人の男が近づいてきた。
昔のケインみたいなその男は、申し訳なさそうにちらちらっとケインを見ている。
どうしたのだろうか?
「あの、ケインさん。今日の分の報酬をいただけないでしょうか?」
「報酬? おまえ今日何かしてたっけ?」
「え? いや、何かって荷物持ちとか、後方支援とか……」
そこまで話しを聞いて、ようやくその男が新しく入ったメンバーであることに気がついた。
他のメンバーと装備品も違えば、雰囲気も全く違う。
それに、やけに離れた所にいるせいか同じパーティ仲間だとは気づけなかった。
「あー、そういえば、後ろの方でちょろちょろしてたな」
ケインはわざとらしくそう言うと、にやにやと笑う。
……凄い既視感を覚える会話だ。
それも、つい最近したような会話。
俺がそんなことを考えていると、ケインはポケットから小銭を手に取り、その小銭を足元に投げた。
「ほら、拾えよ」
「こ、これだけですか? こんなお金でどうやって生活しろって言うんですか?」
「嫌ならやめろ。荷物持ちなんて代わりはいくらでもいるからな」
ケインがそう言って笑いだすと、他のパーティメンバーたちも一緒になってその男のことを笑い始める。
……これって、アニメでケインがロイドたちにされていたことだ。
俺がそんなことを考えていると、ケインがひとしきり笑った後に何かに気づいたようにこちらをちらっと見る。
「ん? なんだそのガキは……お、獣人か」
ケインはそんな声を漏らすと、グラスに残っていた酒を一気飲み干してから立ち上がる。
「おい、喜べガキ。おまえを俺のパーティ『竜王の炎』のメンバーに入れてやろう。うちで荷物持ちをさせてやるよ。獣人は体力馬鹿だからな、ボロボロになるまで使ってやる。それに、面も悪くないじゃねーか。ほら、こっちにこい」
ケインはそう言うと、すっと手をリリナに伸ばす。
体力馬鹿だから荷物持ちをさせる? ボロボロになるまで使う?
今、リリナに向かってそんなことを言ったのか?
俺はケインの言葉を聞いて、カッと頭に血が上るのを感じた。
その結果、俺は拳を振り上げていた。
そして、次の瞬間、パシンッという音が冒険者ギルドに響く。
俺はその音を聞いて、握っていた拳の力を緩めていた。
パシンッという音は、俺ではなくリリナがケインの手を叩いた音だった。
「私に気安く触らないでください」
リリナはケインに冷たい目を向けながら、ケインが伸ばしてきた手を強く叩いていた。
思いもしなかった事態に、一瞬冒険者ギルド内がシンっと静まり返る。
「こ、このっ、ガキ……」
やがて、ケインは自分の誘いを断られたことに気づいたらしく、顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
これ以上面倒ごとにさせるわけにはいかないな。
そう思った俺は、リリナとケインの間に入ってケインをじっと見る。
「悪いな、ケイン。この子は俺のパーティメンバーなんだ。引き抜きはやめてもらおうか」
「ロイドさま!」
俺の言葉を聞いて、リリナは表情を一転させてぱぁっと明るい表情になる。
思わず言ってしまった言葉だが、そこに後悔の気持ちはまるでなかった。
俺のこの発言は、以前のリリナの言葉に対する答えになると思う。
『なので、ロイドさま。私を一緒に連れて行ってくださいませんか?』
リリナの幸せのためには、ケインと一緒にいた方がいいと思った。でも、現状が現状だ。
こんな状態のケインにリリナを渡すわけにはいかないだろう。
そんな事を考えながら、俺の心の中はすっきりとしていた。
ケインにリリナを渡さなくてもいい。まだリリナと旅をできるということに、俺は喜びを隠せず笑みを浮かべていたのだ。
そんな俺の表情を見て、リリナもにへらっと緩んだ笑みを浮かべている。
「……いやいや、俺だぞ? A級パーティ『竜王の炎』のリーダーが直々に誘ってやったんだぞ? 断らないだろ、普通は」
「ケイン?」
俺がリリナとそんなやり取りをしていると、ケインが何かを小声でぶつぶつと言っていた。
すると、俺がケインの顔を覗こうとするよりも早く、レナとエミがケインの体に身を寄せる。
「ケイン、いいじゃん。私たちがいるんだから、こんなガキいらないでしょ?」
「そうですよ。子どもじゃできないことも、私たちならできますから」
エミとレナが色っぽくケインにそう言うと、ケインはまたすぐに顔をにやけさせる。
「……それもそうだなぁ。よく見れば、発達も悪いただのガキだ。あんな奴いらん。まぁ、落ちぶれた奴にはちょうどいいかもしれないけどなぁ! アハハッ!!」
ケインが高笑いをすると、それに合わせたようにパーティメンバーたちも笑いだす。
そして、最後に『こんな落ちぶれた奴と同じ場所にいたら、俺たちも落ちぶれちまうなぁ!』と言い残して、ケインたちは冒険者ギルドを後にした。
「ロイドさまは、落ちぶれてなんかいません!」
「リリナ、俺は大丈夫だから」
ケインが出ていく間、リリナが色々と俺を庇ってくれたが、ただケインたちの笑いを誘うだけの結果になってしまった。
まぁ、誰が見ても落ちぶれていってるのは明確だしな。
「ケインの奴、随分と変わったな」
「私、あの人嫌いです!」
リリナはそう言うと、ふんすと怒って頬を膨らませている。
まぁ、あの状態のケインを気に入る奴はいないよな。
本当に、何が起きているのやら。
俺はアニメと違い過ぎている展開に、一人頭を悩ませるのだった。
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