第33話 森の異常とケインの素行


 冒険者ギルドでリリナとパーティの申請をしようとしたところ、なぜか俺たちはそのまま冒険者ギルドの奥の部屋に連れていかれてしまった。


 アニメでも見たことのある簡易的な個室には、ソファーとテーブルくらいしか置かれておらず、俺とリリはレミさんと向かい合うように座っている。


 わざわざパーティの申請の手続きを個室でやる必要はないし、何か別件で俺に用があるのだろう。


 ……ロイドが何か変なことやってなければいいけどな。


 俺がそんなことを考えていると、レミさんが重そうに口を開く。


「ロイドさんが言っていた森の魔物の件についてですが、原因は判明しているんです」


「え、そうなんですか」


 どうやら、話というのは俺が報告した森の魔物たちのことについてらしい。


 よかった。とりあえず、ロイドの悪行についての話ではないみたいだ。


 俺は安堵のため息をついて、胸をなでおろす。


 森の魔物たちのことについても、原因も分かっているみたいだし、すぐに解決してくれるのだろう。


 ん? その割にはレミさんの表情が暗い気がするな。


「……実は『竜王の炎』の行動が問題でして」


「え、『竜王の炎』が?」


 俺は思いもしなった言葉を聞いて、少し間の抜けた声を漏らす。


 なんでここで、前にロイドがいたパーティの名前が出てくるんだ?


 俺が目をぱちくりとさせていると、レミさんは言葉を続ける。


「どうやら、レベル上げと高価な素材のみを集めようとしているらしく、ケインさんがザードさんに『支援』のスキルを使って、ザードさんの『デコイ』で強い魔物を近くの森に呼び込んでいるんです」


「そ、そんな使い方があるとは……なるほど」


『デコイ』というのは、魔物の囮になるスキルだ。


 自分に魔物の意識を向けるようなスキルなのだが、それをケインの『支援』で底上げして、遠くの魔物も寄ってくるようにしているということだ。


 要するに、コバエ取りみたいな感じで魔物がうじゃうじゃ寄ってくる状態を作っているのだろう。


 ……随分と効率的なレベルの上げ方だな。


 アニメでも見たことのないレベル上げの方法だが、効率的で良い方法かもしれない。


「ん? でも、集めた魔物はちゃんと倒すんですよね? それなら、そこまで問題はないのでは?」


 魔物を『デコイ』で呼べば、一瞬は魔物の生態系は崩れかけるかもしれない。


 でも、すぐにその魔物を倒してしまえば、そこまで影響が出ないはずだ。


 俺がそう考えて口にすると、レミさんが小さく首を横に振る。


「いいえ。時間の無駄だと言って、一定レベル以外の魔物は森に放置しているみたいです。私も他の冒険者から聞いたことなので、詳しくは分かりませんけど」


「え、魔物を集めるだけ集めて放置してるんですか?」


「『雑魚を相手にするほど、俺たちは暇じゃない』と言って、目的の魔物以外は放置だそうです」


「いや、それってギルドが注意をすれば、あいつらも従うんじゃないですか?」


 魔物を呼ぶだけ呼んで放置するなんてしていたら、森の生態系が壊れることくらい分かるはずだ。


 というか、そういうのを一番気にしそうなケインがいるはずなのに、なんでそんなことになっているんだ?


 俺が首を傾げていると、レミさんは言葉を続ける。


「注意は何度もしているんですが、全然話を聞いてくれないんです。あのパーティ、ケインさんがリーダーになってから、素行の悪さに拍車がかかってるんですよ」


 レミさんはそう言うと、深いため息を漏らす。


 そして、俺はレミさんの言葉を聞いて、すっかり変わってしまったケインのことを思い出した。


「あ、そうだ。そういえば、ケインに何があったんですか? 久しぶりに会ったら、なんかキャラが違い過ぎてたんですけど」


「あれ? あ、そうでしたね。ちょうど、ロイドさんが冒険者ギルドに顔を出さなくなってからでしたね。ケインさんが変わってしまったのは」


 レミさんは眉を下げて、悲しそうな笑みを浮かべて言葉を続ける。


「『竜王の炎』のリーダーになってから、ケインさんは随分と変わりましたよ。今まで溜まっていた鬱憤を晴らすように、荷物持ちの子を雇って八つ当たりしたり、冒険者とか街の人を馬鹿にして歩きまわったりしているみたいです」


「……へ?」


 俺はレミさんの言葉を聞いて、間の抜けたような声を漏らしていた。


 このアニメの主人公であるはずのケインがそんなことをしているのか?


 あれ?


 これって、ケインとロイドの立場が逆転してきてないか?



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