第29話 主人公、ヒロインと出会う
秘薬を採って来てから数日後、リリナのお母さんの病は見事に完治した。
そして、リリナのお母さんに感謝の言葉と共に見送ってもらい、俺たちは街にある冒険者ギルドに向かっていた。
目的はもちろん、リリナとケインを出会わせるためだ。
「あの、ロイドさま。私に会わせたい人ってどんな人なのですか?」
リリナは俺のすぐ隣を歩きながら顔を上げる。
この距離間でいてくれるのも、きっとケインに会うまでなのだろうなと思うと、少し胸がキュッとする気がした。
「そうだな。人が困っていると誰でも手を差し伸べてしまうようなお人好しで、仲間のことも大切に扱ってくれる優しい人だよ」
「それって、ロイドさまのことなのでは?」
リリナは本気の顔でそう言うと、可愛らしく首を傾げる。
何をどうしたら、ロイドのことをそんなふうに思えるんだろうな。
俺はそう考えながら、冒険者ギルドの扉に手をかける。
……この扉を開けたら、リリナはケインのもとに行ってしまうのか。
「ロイドさま?」
「なんでもない。いくぞ、リリナ」
俺は決心が揺らいでしまう前に、勢いに任せるように扉を開けた。
どうせどれだけ考えても、俺の結論は変わらない。
それなら、これ以上考えても仕方がないだろう。
「ほら、リリナ入ってくれ」
「はい。わぁ、冒険者ギルドってこうなってるんですね。初めて入りました」
リリナは興味津々といった様子で、冒険者ギルドの中をきょろきょろと見渡している。
その無邪気さを前に、俺は小さく笑みを浮かべる。
「おい! 酒はまだか! どれだけ待たせるんだよ!!」
俺たちが冒険者ギルドを歩いていると、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。
少し怖い客が隣の酒場にいるみたいだが、これも冒険者ギルドの一面だ。
これからケインたちと旅をするなら、こんな光景はよく見るかもしれないな。
「おいおい! 店員! なんだそのクソみたいな耳飾りはよぉ! そんな安物じゃなくて、金の物をつけろよなぁ……この貧乏人が!!」
中々厄介な酔っ払いでもいるのだろうか? さっきからやけにうるさいテーブルがあるな。
「なんだぁ、おまえら。A級冒険者の俺たちに文句でもあるのか? あぁ?」
ん? 暴れているのはA級冒険者なのか。
というか、ロイドたち以外にも冒険者ギルドであんな暴れ方する連中がいるんだな。
一体、どんな冒険者なのだろうか?
俺は気づかれないように、ちらっとその冒険者の方に視線を向ける。
「……え?」
見間違い、とかではないよな?
俺は自分の目を疑うように目をごしごしと擦ってから、再びその冒険者の方に視線を向ける。
黒髪で平均的な顔立ちをしていて、体の線が細い。
何度もアニメで見たことのあるはずのそのキャラクターは、俺が知っているキャラクターとは別人になっていた。
以前のロイドのように髪をツンツンにして上げて、金色の装飾品をこれでもかというくらいに身に着けて、両手には宝石のついた指輪を着けている。
そして、元々優しい顔立ちをしていたはずの顔は、人を小ばかにするような顔をしていた。
「ケイン、なのか?」
俺の視線の先にいたのは、このアニメの主人公だった。
人違いだよな……いや、両隣にレナとエミがいるし、少し離れた所にはザードもいる。
ということは、人違いじゃないのか?
二人の女の子に腕を組まれてご満悦な顔をしているケインは、とてもアニメの主人公の顔つきではなくなっていた。
「どうしたんですか、ロイドさま?」
リリナは俺の視線の先を追って、ケインの姿を見て顔をしかめる。
「うわぁ、何ですかあの人……気持ち悪い」
いや、それアニメでリリナがロイドに言うセリフだから!
リリナが眉間にシワを入れて軽蔑している姿を見て、俺はただ目の前で起きている事態に困惑する。
一体、何がどうなったらこうなるんだよ。
俺は変わり果てたこのアニメの主人公を見て、頭を抱えるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【作品のフォロー】、【評価☆☆☆】で応援してもらえると嬉しいです!
※評価は作品画面の下にある『おすすめレビュー』の『☆で称える』から行うことができます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます