第28話 秘薬イベントの終了と


「ふー、やっと帰ってこられたな」


「はい! ロイドさまのおかげです!」


それから数日後、俺たちは無事に森からリリナの家に帰還することができた。


『潜伏』をしながら森から下ってきたのだが、その途中で何度も魔物と戦闘をすることになった。


 その結果、俺たちは森に入る前と比べて驚くくらいレベルが上がっていた。


まぁ、あれだけ何度も強い魔物と戦えば、レベルも上がるよな。


俺に至ってはスキルも色々と奪えたし、秘薬探しのイベントのはずが、レベルアップのためのイベントみたいになってしまった。


「それじゃあ、リリナはお母さんに秘薬を持っていってあげてくれ」


「分かりました! 少し時間がかかると思うので、ゆっくりしていてくださいね!」


「はいよ。お構いなく」


 リリナはそう言うと、薬草をすり潰す道具と秘薬を持って、お母さんがいる部屋に入っていった。


 俺は扉を挟んで聞こえる二人の楽しげな会話を聞いて、小さく笑みを浮かべる。


 これで、秘薬の採取イベントは無事完了ってところだな


 そんなことを考えてから、俺は数日泊まらせてもらったリリナの家をぐるっと見渡す。


 多分、これでこの家も見納めだろう。


 そして、楽しかったリリナとの旅も終わることになる。


 そりゃあ、そうだ。


本来、俺たちは一緒にいないはずの二人だったのだから。


「……寂しくなるよなぁ」


 俺はここ最近の数日間を思い出して、少しだけしんみりとした声を漏らすのだった。




「ロイドさま! お母さんに秘薬を飲ませてきました! 顔色が凄く良くなりましたよ!」


 それからしばらくして、奥の部屋から戻ってきたリリナは嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 リリナのピコピコと揺れる耳を見るだけで、お母さんの状態が良くなったことが伝わってくる。


「そっか。それはなによりだな」


「はい! あと数日飲ませれば、きっと病も治るはずです!」


 リリナは俺のもとに駆け寄ってくると、俺を見上げて尻尾をフリフリとさせている。


 俺がリリナの頭を撫でてやると、リリナは表情を一段と緩める。


「にへへっ♪」


 心地よさそうに目を細めるリリナをしばらく撫でてから、俺は名残惜しさを覚えながらそっとリリナの頭から手を放す。


 ……悪役のくせに、ヒロインに近づき過ぎちゃったかもな。


 俺はそんなことを考えながら、小さく咳ばらいをする。


「それじゃあ、俺はそろそろ行くかな」


「ロイドさま、どこかに行かれるんですか?」


「どこにって訳じゃないけど、リリナもリリナのお母さんも体の具合が良くなったんだ。俺は街にでも戻るよ」


「え?」


 ずっと心を支えてもらっていたアニメ『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』。


 今回のイベントを完遂することで、そのヒロインの命を助けることができた。


 主人公のケインの代わりとしては、十分過ぎる働きだろう。


 こんな俺でも、少しは恩返しができたかもしれないな。


「ん? リリナ?」


 俺がそんなことを考えていると、リリナが慌てるように俺の服の裾を引く。


「私を連れていってはくれないのですか?」


 俺を見上げたリリナは、目に涙を溜めながら俺をじっと見つめている。


 俺はその涙を前にして、言葉を失ってしまう。


「まだまだ恩を返せてません。なんでもするので、隣にいさせてください!」


 必死なリリナの顔を見て、俺は一瞬頷きそうになる。


 しかし、俺はその気持ちを必死に抑えて、代わりに悪者のような作った笑みを浮かべた。


「いいのか? 俺は街中から嫌われてる悪役だぞ?」


 本当なら、すぐにでも頷いてリリナと一緒に旅をしたい。


 しかし、そう思いながらも俺には頷けない理由があった。


 ロイドと一緒にいるということは、リリナがロイドの仲間として見られるということだ。


 それは当然、リリナが生きやすい環境ではなくなる。


 そう考えると、ここでリリナを突き放した方がいいのではないかと思った。


 だから、俺はあえてアニメで見たロイドの悪い顔を再現してリリナに向ける。


「……くすっ」


 俺が悪い表情を浮かべていると、リリナは噴き出すように笑いだした。


「あ、あれ? 何かおかしいところあったか?」


「だってロイドさま、似合わないことをするから」


「似合わない? えっと、何がだ?」


「たまにする悪ぶった顔ですよ。ロイドさま、全然そんなお方じゃないのに」


 リリナはそう言うと、余程おかしかったのかしばらく笑っていた。


 俺はリリナの言っていることの意味が分からず、首を傾げる。


「いやいや、俺は現在進行形で悪役だぞ?」


 俺がそう言うと、リリナは優しく首を横に振る。


「初めて会ったとき、凄い驚きました。悪い噂しか聞いたことがないのに、全く邪気を感じなかったので」


「邪気?」


「私たちの種族って、本能的に悪い人かどうか感じ取ることができるんです。でも、ロイドさまからはその邪気を全く感じませんでした」


 リリナに言われて、俺は確かにそんな設定があったなと思い出す。


 ん? そういえば、リリナにもリリナのお母さんにも、やけに顔を見られた記憶があるな。


 随分と人のことを見てくるなと思ったけど、あれって邪気を見ていたのか?


 あれ? じゃあ、今まで俺がたまに悪ぶっていた意味ってなかったのか?


 なんだろう。急に恥ずかしくなってきたな。


 俺がそんなことを考えていると、リリナは言葉を続ける。


「初めは困惑しましたけど、数日ともにしていく中で、ロイドさまが優しい人だって伝わってきました」


 俺は優しい顔を向けてくるリリナを見て、思わず口を挟む。


「でも、噂は本当だぞ。多分、俺は過去に取り返しがつかないようなことを色々している。リリナが軽蔑するようなことも五万としてきた」


 しかし、リリナはそんな俺の言葉を聞いても、優しい顔で俺を見つめ続けている。


「そうだとしても、私は今の優しいロイドさましか知りません。それに、今度ロイドさまがそんなことをしようとしたら、私が命に代えてでも止めてみせます」


 リリナはそこまで言うと、俺の服の裾から手を放して姿勢を正す。


「なので、ロイドさま。私を一緒に連れて行ってくださいませんか?」


 俺はリリナの真剣な表情を前にして、巻き込みたくないという気持ちが微かに揺らいでしまう。


 おそらく、今後誰も俺とはパーティを組んではくれないだろう。


 今この機会を逃すと、俺は今後ずっとソロで依頼を受けていかなければならない。


 それなら、リリナのような子が仲間になってくれた方が助かる。


 きっと、ここでリリナの言葉に頷くだけで、随分と生きやすくなると思う。


 俺はそんなことを考えてから、首を縦にも横にも振らず言葉を漏らす。


「……その言葉に答える前に、リリナには会って欲しい人がいるんだ」


 俺は自己中心的になりかけた考えを振り払い、少しの笑みを浮かべる。


 やっぱり、リリナの隣は俺じゃダメだと思う。


 俺はアニメで主人公のケインの隣で笑っているリリナを思い出して、そんなことを思った。


 出会えなかったのなら、俺が会わせてあげないとな。


 それがきっと、一番良い選択なのだろう。


 俺はリリナの幸せな未来のために、リリナをケインに会わせることにした。



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