第27話 知らないボス戦
「まぁ、当然アニメで見たことない魔物だよな」
俺は目の前のイグアナのような魔物を前にして、冷や汗を垂らしていた。
俺の『風爪(魔)』はレベルアップされたもので、太い木の幹を斬り倒すくらいの威力があるものだ。
それが軽く弾かれたのだ。動揺しない方が無理というものだ。
「ガアアア」
すると、魔物は鉱石のように硬くなった片手を大きく振り上げた。
まずい、何かしらのスキルが来る!
「『瞬地(魔)』!」
「ガアアアッ!!」
ズシャッッン!!
その魔物が腕を振り下ろしたときには、俺はすでに魔物の後方にいた。
何か凄い音が聞こえたと思って振り向くと、太い幹をした木々が数本切り倒されていた。
『風爪(魔)』が木を一本くらいしか斬り倒せないのを考えると、あの魔物のスキルは『風爪(魔)』の数倍の威力があるみたいだ。
「いや、さすがにそのスキルは危険すぎるだろ!」
俺があまりの威力に驚いていると、魔物がすぐに俺に気づいて、再び俺の方に向かってきた。
おそらく、このまま突っ込めば、俺が簡単に押し負けると思っているのだろう。
まったく、舐められたものだ。
それはそう考えながら、長剣を持っていない左手をぐっと魔物に向ける。
「とりあえず、防御か攻撃のどちらかのスキルをもらうぞ。『スティール』!」
俺が『スティール』を使うと、左の手のひらがぱぁっと小さく光らなかった。
ん? 光らない?
俺が困惑していると、ステータスを表示する画面が現れた。
『スティールによる強奪失敗 ステータス又はレベル差が大きいため』
「し、失敗?!」
俺は画面の文字に驚き、間抜けな声を上げてしまった。
何も奪えていないとなると、俺のもとに突っ込んで来ている魔物を全然デバフできていないことになる。
「ガアアアッ!!」
俺がそんなことを考えていると、魔物は俺のすぐ目の前まで来ていた。
そして、さっき木々をなぎ倒したときと同じようなフォームで片手を大きく上げている。
まずい、完全に逃げるタイミングを失った。
防御する術がないなら、仕方がない。
……無理やり力で押し切るか。
俺はやけくそ気味に長剣を振りかぶる。
「ガアアアッ!!」
「『豪力(魔)』!」
ガッギィィィン!!
鋭い金属同士が衝突する音と共に、俺の長剣を強く押し返してくる力を強く感じる。
力は一瞬拮抗しているように思えたが、全然刃が相手の体に食い込んでいかない。
このままだと俺の剣が先に悲鳴を上げそうだ。
くそっ、相手は素手なのに、なんでこんなに斬れないんだよ!
俺はそう考えて、ちらっと長剣と接している魔物の手を確認する。
すると、魔物の手は連なった鉱石のような物に包まれていた。
さっき俺の攻撃を簡単に弾いたスキル……こいつ、防御と攻撃のスキルを同時に発動しているのか!
俺はこのまま腕を切り落とすのは無理だと判断し、一気に刀を滑らせて攻撃を流すように弾く。
ズシャッッ!!
すると、魔物の攻撃を弾いた方向にあった木々がなぎ倒されていった。
「ガッ!?」
魔物は自分の攻撃を弾かれると思っていなかったのか、微かによろめいてバランスを崩す。
……今この一瞬を見過ごすわけにはいかない。
俺はそう考えて、一瞬の隙をついて魔物の死角に入り込んで、切っ先を魔物の横腹に向ける。
やっぱり、ここは鉱石みたいになっていない。
それなら、俺のスキルで多少は攻撃できるはずだ。
ステータスやレベル差があろうが、相手の体力を削ればスキルだって通るはずだろ。
「強突(魔)!」
俺がスキルを発動すると、勢いのある鋭い突きが魔物を襲った。
「ガァ!!」
「くっそ、浅いな!」
俺の突きは素早さこそあったが、俺の長剣は魔物の体を軽く刺した程度で止まってしまった。
完全に死角を突いたはずなのに、俺が長剣で刺した場所はすぐに鉱石で覆われてそれ以上刃を通さなくなった。
なんなんだこのチートスキルは!
ステータス差で大きく負けていることもあってか、ダメージがあまり入らない。
何か今の状況を打開できるスキルはないかと考えたとき、アニメで追い詰められたロイドが使っていた魔法を思い出す。
確か、こんな感じだったはずだ。
「『中級魔法 雷痙』!」
俺が長剣を刺しながら唱えると、刀身が雷を受けたようにビリビリと光り出す。
『雷痙』は相手を麻痺の状態にさせる魔法だ。しかし、本来は各上の相手には普通に使っても効果はない。
だが、長剣を刺した状態で内側から使えば、そうでもないらしい。
「ガガガッ!」
魔物はそんな声を漏らして、体を小さく痙攣させているみたいだった。
一瞬生じた状態異常。
多分、この隙をつく以外に俺に勝ち目はないだろう。
俺はそう考えて、長剣を引き抜くと同時に左手をぐっと魔物に向ける。
「今度こそ頼むぞ。『スティール』!」
俺が『スティール』を使うと、左の手のひらがぱぁっと小さく光ってステータスを表示する画面がすぐに現れる。
『スティールによる強奪成功 スキル:鉱石化(魔)』
「『鉱石化』か。なるほど、見た目通りのスキルだな」
俺は表示された画面を見て、小さく笑みを浮かべる。
……どれ、防御力を大きく削られたこの魔物はどれくらい斬れるんだ?
俺は魔物が麻痺状態から回復して、体勢を整えようとした瞬間に、長剣を思いっきり上から振り下ろす。
「『豪力(魔)』!」
ズシャァァァッ!!
「ギガアアアッ!!」
俺の剣を横腹にもろに食らった魔物は大きな悲鳴を上げた。
しかし、その体が真っ二つになることはなかった。
とはいっても、血の量が尋常ではないみたいだけど。
「お、ゴリラの魔物よりは硬いんじゃないか?」
「ガ、ガ……」
魔物は何が起きているのか分からなくなったのか、何も言えずにふらふらとしている。
それなら、今のうちにまたスキルを奪ってしまうか。
俺はそう考えて、左手を魔物の横腹に当ててぐっと力を入れる。
「『スティール』」
すると、俺の左の手のひらがぱぁっと小さく光ってから、ステータスを表示する画面が現れる。
『スティールによる強奪成功 スキル:嵐爪(魔)』
俺はその画面を見て、なるほどと頷く。
『風爪』の威力を数倍にした物だと思ったら、風ではなく嵐ときたか。
「ガ、ガアアアッ!!」
俺がそんなふうに感心していると、魔物は最後の悪あがきをするように、振り上げた片手を俺に振り下ろしてきた。
まともに食らえば、結構なダメージを負うかもしれない勢い。
「どれ、試してみるか……『鉱石化(魔)!』」
俺が『鉱石化(魔)』のスキルを使うと、俺の左の腕の肘から下が鉱石が連なったようなもので包まれた。
なんかもう一部分だけ魔物になったみたいだな。
俺はそんなことを考えながら、魔物からの一撃をその左手で振り払う。
ガギィン!
「ガ、ガア?」
「ほぉ、これはすごいな」
どうやら、『鉱石化(魔)』は魔物からの一撃を片手で防げるくらいの強度があるらしい。
いや、ロイドの『スティール』の特性から考えると、俺の『風爪(魔)』を無傷で防げるくらの強度があるのかもな。
……なんか見た目は完全に悪役にしか見えない腕だけど、そこは仕方ないか。
「ガ、ガ、」
「ああ、そうか。本当はスキルを使うつもりだったのか?」
俺は困惑している魔物を見て、すっと剣を振り上げる。
そして、俺は新たに奪ったスキルを使いながら、とどめを刺すために剣を振り下ろす。
「『嵐爪(魔)』!!」
ズシャァァァッン!!
「ガアアアァァァ!!」
すると、勢いよく繰り出された斬撃が魔物の体を真っ二つにした。
そして、勢い余った斬撃は太い幹の木に大きな刀傷を残した。
俺はその威力に引きながら、辺りを見渡して顔を引きつらせる。
「……なんか魔物同士の戦いの後みたいだな」
そう思ってしまうくらい、俺たちの周りの木々や地面には惨い傷跡が残っていた。
C級冒険者と魔物が戦った後だとは、誰も思ないだろう。
「ろ、ロイドさま。すみません、加勢できませんでした」
俺がそんなことを考えていると、リリナが申し訳なさそうにとぼとぼと俺の前にやってきた。
普段は立っている耳が垂れているあたり、自分が加勢できなかったことに責任を感じているらしい。
いや、さっきまでの戦いに巻き込まれなかっただけでも十分なのにな。
「いいんだよ、リリナ。むしろ、下手に飛び込んでこなかったってことは、冷静な判断ができてるって証拠だよ」
「うぅ、ロイドさま優し過ぎますぅ」
俺はそう言いながら、肩を落としているリリナの頭を撫でてリリナの元気が出るまで待つことにした。
お、少し耳がピコピコと動いてきたな。
そんなことを考えながら、俺は撫で心地が良い頭をしばらく撫でるのだった。
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