第23話 スティールの使い方


『スティールによる強奪成功 スキル:瞬地(魔)』


 普段ステータスを表示する画面が現れて、そこにはそんな文章が書かれていた。


「『瞬地』? 瞬地って早く動くスキルだったよな?」


 アニメでスピードを活かしたヒロインの一人が使っていたスキルだ。


 てっきり強い攻撃系のスキルを奪うつもりだっただけに、少しの肩透かし感がある。


 奪うスキルはランダムってことなのか?


 でも、これはボスのような魔物から奪ったスキルだ。


 当然、それが弱いわけがないよな。


「ギギィ!!」


「おっと、いつまでも剣を地面に刺したままって訳にはいかないか」


 このゴリラのような魔物は馬鹿力にプラスして、スピードの速い攻撃をしてくる魔物だったはず。


 剣を地面に刺したまま悠長にしていたら、あっと今に距離を詰められて殴られてしまう。


 俺は慌てて剣を引き抜いて、切っ先を魔物に向ける。


 そして、魔物は俺が構えた瞬間、俺に素早い攻撃をするために突っ込んでくる。


「ギギィ! ……ギ?」


「ん? なんでそんなスピードが遅いんだ?」


俺はいつまで経っても、のそのそとジョギングしているような魔物を前に首を傾げる。


「ギギ! ギ、ギ?」


 魔物はただそれっぽく構えをとるだけで、一向に素早い攻撃を仕掛けてこない。


 何かスキルを発動させようとしているみたいだが、いつまで経ってもスキルを発動させようとはしないみたいだ。


「もしかして、俺が奪ったからか?」


 俺は今の状況に困惑している魔物を見て、ふとさっき奪ったスキルのことを思い出す。


もしかしたら、この魔物の速い攻撃は全部『瞬地』のスキルを使っていたのか?


 確かに、普通に考えたらあの巨体が素早く動くのはどう考えてもおかしい。


 でも、あの素早い攻撃が『瞬地』によるものだとしたら、納得がいく。


「つまり、俺がスキルを奪っちゃったから、速い攻撃はもう使えないってことか。デバフみたいだな」


どうやら、ロイドの『スティール』は戦闘中に使うことで、相手を間接的に弱体できる効果があるみたいだ。


 やっぱり、ロイドの『スティール』もケインの『支援』並みに強いスキルだよな。


 俺は『瞬地』のスキルが使えなくて慌てている魔物を見て、口元を緩める。


「余程重要なスキルだったらしいな。どれほどのものなのか試してみるか」


 俺はそう言ってから、身を少し低くして長剣を構える。


「『瞬地(魔)! とっ……え?』」


 俺がスキルを使った次の瞬間、俺の体は凄い風圧を受けた。


そして、その次の瞬間には、俺はゴリラのような魔物の背後を取っていた。


 俺は一瞬何が起きたのか分からずに固まってから、慌てて振り向いて魔物の後頭部に長剣を構える。


なるほど、これが『『瞬地(魔)』の力なのか。


初手でいきなり攻撃をしてきたのも、リリナを襲った時もこのスキルを使ったのだろう。


確かに、この速度ならリリナも気づきようがないはずだ。


そして、それは目の間にいる魔物も同様らしい。


 俺は未だ背後を取られたことに気づいてない背中に向けて、長剣を振りかぶる。


「『爪風(魔)』!」


 俺が思いっきり刀を振り下ろすと、勢いよく飛んでいった斬撃が魔物の首を後ろから捉えた。


 ザシュッ!!


「ギギィ!!!」


 ちょうど皮膚の薄い所に直撃したのか、魔物は先程とは比べ物にならない量の血を噴き出す。


 慌てて手で傷口を押さえようとしているが、そんな止血方法で止まる量の血ではなかった。


「やぁっ!!」


「ぎ、ギィ?!」


 ドシンッ!


 そして、リリナの声が聞こえたと思った次の瞬間、その魔物は腰を抜かすようにぺたんと地面にお尻をつけた。


 何が起きたのかと思って魔物を見てみると、魔物の片足の腱の部分に知らない刀傷がついていた。


 どうやら、リリナが取り乱した魔物の不意を突いて腱を斬りつけたらしい。


 本当頼りになるな、リリナ。


 俺は右手で長剣を持ったまま、左手をぐっと倒れている魔物に向ける。


「今度は奪わせてもらうぞ。その怪力をな」


 俺はそう言うと、左手の手のひらを魔物に向けたまま構える。


「『スティール』!」


 俺がスキルを発動させると、左手が小さくぱぁっと光った。


 そして、ステータスを表示する画面が現れて、次のような文書を表示する。


『スティールによる強奪成功 スキル:豪力(魔)』


「おお、文字を見ただけでもパワー系過ぎるスキルだな」


 どうやら、今度はちゃんと目的の系統のスキルを取れたらしい。


 果たして、その力はどれほどのものなのか。


 これだけ試すのに絶好な機会があるのに、試さないわけがないよな。


「ギギギィ!! ……ギ?」


「どうした? またスキルが出ないのか?」


 俺は倒れた姿勢のまま俺に殴りかかろうとして、中々殴ってこない魔物にそう言って口元を緩める。


「失くしたスキルは、多分これだろ?」


 俺はそう言うと、立ち上がれなくなった魔物に向かって突っ込んでいく。


 そして、俺の接近に慌てる魔物をそのままに、俺は剣を振り上げる。


「『豪力(魔)』!!」


 ズシャァァァッ!!


 俺が魔物の頭めがけて剣を振り下ろすと、巨人の一撃のような力が俺の剣に加わった。


「ギィィィィイイ!!!」


 そして、その一撃をもろに食らった魔物は、頭を真っ二つにされて、その場に倒れ込んだ。


 ……いやいや、さすがに強すぎないか、このスキル。


「ロイドさまぁ!!」


 俺があまりの威力に引いていると、リリナがとててっと駆け寄ってきて俺に抱きついてきた。


 俺が勢い余ったリリナの体を支えると、リリナはぱぁっと笑みを浮かべて俺を見上げる。


「ロイドさま凄いです!! あの魔物をあんな簡単に倒しちゃうだなんて!」


「まぁ、簡単ってことはなかったけどな。それよりも、リリナもナイスアシストだったぞ」


「本当ですか? ロイドさまに褒めてもらえるなんて、嬉しいです!!」


 リリナはそう言うと、可愛らしく耳をピコピコと動かして嬉しさを表現していた。


 俺は倒れている魔物をちらっと見て、少し考える。


 ……多分、これからが問題だろうな。


 なぜこの魔物がこんな森を下った場所に現れたのか。


 なんとなくだが、その理由は想像がつく。


 そんなことを考えながらも、俺はにへっと緩んだ笑みを浮かべるリリナを見て、釣られるように笑ってしまうのだった。



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