第24話 今後の方針
「え、さっきの魔物よりも強い魔物が上にいるんですか?」
「ああ。多分、自分よりも強い魔物から逃げてきたんじゃないかって思うんだ」
俺たちは倒した魔物の解体を終えて、夕食を食べていた。
食事のメニューはさっき倒したゴリラのような魔物の肉を豪快に使ったステーキと、スープとパンだった。
当然、悪役のロイドやスーパーの割引弁当ばかり食べていた俺が料理などできるはずがなく、食事はリリナに作ってもらった。
好きなアニメのヒロインが作った料理を食べているというのは、中々贅沢な体験だと思う。
リリナが料理を得意としていることはアニメで知ってはいたが、こうして食べてみるとその美味しさには感動さえ覚える。
……リリナって、こっちの道でも食べていけるんじゃないか?
俺はしっかりとリリナが作った料理を味わってから、咳ばらいを一つする。
料理に感動しているだけでなくて、今後のことを話し合わないとな。
「あの魔物は川の上流の方にいる魔物だ。それが下ってきたってことは、食糧不足か縄張り争いに負けたと考えるのが普通だろうな」
「あっ、ここに来るまで魔物が多かったのもその影響ですかね?」
「多分な。最悪の場合、さっき戦った魔物以上の奴らが複数いて、上流を占拠している可能性もある」
ここまで来るのに多くの魔物たちと戦ってきた。
もしも、さっきの魔物以上の強さの魔物が一体しかいないのなら、ここまで多くの魔物たちが下りてくることはないだろう。
本来川の上流にいる魔物たちが中流に追い出されて、そのまま他の魔物たちがさらに下に追い出されたと考えるのが妥当かもしれない。
そうなると、空いた上流にはどれほど多く強い魔物がいるのだろうか。
……正直、考えたくもないな。
「まさか、そんなことになってるなんて……もしかして、一度引き返すんですか?」
「いや、引き返さない。引き返してしまったら、秘薬を手に入れるチャンスが二度とないかもしれないからな」
おそらく、現状を冒険者ギルドに知られてしまったら、しばらくは森へ入れなくなる可能性がある。
冒険者ランクが高ければ別かもしれないが、今の俺の冒険者ランクはC級。
かなり微妙な位置だと言っていいだろう。
「それに、報告するにしても、もう少し情報が欲しい。情報がないと冒険者ギルドも対処できないだろうからな」
俺はうんうんと頷くリリナを見て、言葉を続ける。
「でも、強い魔物相手に連戦をするのは無理だ。だから、今後は極力魔物との戦闘は避けていこうと思う。『潜伏』のスキルを使って、一気に登っていこう。秘薬を見つけ次第、秘薬を摘んでそのままこの森を下る」
おそらく、この作戦が色んな意味でベストだと思う。
体力を温存しながら秘薬を回収することができて、異常を少し調べることができる。
心配事があるとすれば、冒険者ランクC級のロイドがどこまで戦えるかだが……そこは、ロイドの『スティール』に任せるしかないか。
……強いスキルを魔物から奪って進んでいけば、ロイドでもやれるはずだ。
「分かりました! 『潜伏』を習得しておいてよかったです!」
「そうだな。頼りにしてるぞ、リリナ」
俺がそう言うと、リリナは表情を緩ませた笑みを浮かべる。
「にへへっ」
それから、耳をピコピコと上機嫌に動かしてから、俺をじっと見つめてくる。
何だろうかと思っていると、リリナは目をキラキラとさせながらニコッと笑う。
「なんだか物語の主人公みたいですね、ロイドさまって」
「主人公? 俺がか?」
俺は思ってもいなかったリリナの言葉に、首を傾げながら間抜けな声を漏らす。
いやいや、俺は思いっきり悪役なんだけど。主人公にざまぁされる系の。
リリナは困惑している俺をそのままに、微かに顔を赤らめる。
「はい! 初めて会った私を助けてくれて、お母さんのことも助けてくれようとして、今度は街のみんなを助けようとしている。……本当にかっこいいです、ロイドさま」
「か、かっこよくはないだろ。別に街の人のことを助けようとまではしてないって」
「危険を冒して森の奥に入ってまで、冒険者ギルドに現状を報告するのは街のためですよね?」
「いや、まぁ、間接的にそうなるかもしれないけど」
「かっこいいです、ロイドさま」
リリナはうっとりした顔で、しどろもどろになった俺を見つめてくる。
いやいや、本当にロイドはそんな奴じゃないんだって!
そんなふうに弁明をしようとも思ったが、今のリリナに何を言っても無駄な気がして、俺は言葉を呑み込む。
……照れくさいな。
そう考えながら、俺はさっきリリナに言われた言葉を思い出していた。
客観的に見れば、過去の非道を除けばロイドの行動は主人公みたいなのかもしれない。
確かに、悪役のロイドには似合わない行動だよな。
俺はそんなことを考えて、少しだけ口元を緩めるのだった。
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