第22話 少し早いボス戦


「ロイドさま、この魔物知ってるんですか?」


「ああ。さすがに名前までは覚えてないけどな」


 俺は後ろでゴリラのような魔物を覗き込むリリナにそう答えて、視線をまた魔物に戻す。


 このゴリラみたいな魔物は、一期のアニメのオープニングにも登場してくる魔物だ。この魔物との戦闘シーンが好きで何回もアニメを観返した。


 確か、アニメでは主人公のケインの『支援』を受けたリリナが、パワーとスピードで圧倒して倒す魔物だ。


 しかし、今は残念ながらケインの『支援』が使えるような状況ではない。


 当然、アニメのように力でごり押すなんて戦い方はできないだろう。


 こいつと戦うことになることは分かっていたけど、まさかこんなに早くやり合うことになるとは思わなかったな。


 現段階のレベルでどこまでできるのか分からないが、やれるだけやってみるしかないか。


「ロイドさま。多分、数日前に私を襲ったの、あいつです。あのときと同じ匂いがします」


「なるほどな。それなら納得だ。さっきのスピードで攻撃をされたら、普通なら何が起きたのか分からないで吹っ飛ばされる」


 人や魔物の気配を感じ取ることが得意なリリナが全く気付かなかったのは、感知できる間合いの外からスキルを使って無理やり猛スピードで突っ込んできたからだろう。


 まだなんであいつがこんな所にいるのかは分からないが、今は深く考えても仕方がない。


「リリナは『潜伏』と『隠密』を使って、攻撃できるときがあったら奴にダメージを与えてくれ。絶対に無理はするなよ」


「でも、それだとロイドさまが集中的に狙われてしまわないですか?」


「それで問題ない。安心してくれ、そう簡単には負けたりはしないから」


 俺が心配そうなリリナに笑いかけると、リリナは少し躊躇った後にこくんと頷いて俺から離れた。


 よっし、これでいいだろう。


 さすがに、常にリリナを守りながら戦えるほど、俺は戦いに慣れてはいない。


 それなら、不意の一手を狙ってくれるくらいの方が俺にとっても戦いやすい。


「ギギィ!」


「少し待たせ過ぎたか? さて、『雷斬』が効かないとなると、次はこれしかないか」


 俺は痺れを切らして吠える魔物に切っ先を向けた後、長剣を振りかぶる。


「『風爪(魔)』!」


 そして、俺が勢いよく長剣を振り下ろすと、大きな斬撃が魔物に向かって一直線に飛んでいく。


 幹の太い木をなぎ倒したことのあるレベルアップした『風爪(魔)』。


 今の俺の最大の攻撃だと思うが、一体どれだけのダメージを与えることができるだろうか。


 俺が魔物の強さを見定めようとじっと見ていると、その魔物は斬撃を避けるそぶりも見せず拳を振りかぶった。


 そして、俺の斬撃とタイミングを合わせるように、その拳を力いっぱいに振り下ろす。


 ズドォッン!!


 勢い余って地面を叩いた拳は、そんな鈍い音を響かせながら、『風爪(魔)』による斬撃を力づくでぶっ潰した。


 その勢いで砂ぼこりが舞い上がる。


「くそっ、どれだけ力馬鹿だ」


「ギ、ギィ……」


「まぁ、当然無傷って訳にはいかないよな」


 砂ぼこりが晴れた先で、魔物は斬撃を潰した手から血を垂れ流していた。


 それほど出血が多いわけではないが、いちおうこっちからの攻撃は通るらしい。


「ただ、決定打には欠けるよな」


 俺はそう言うと、長剣を地面に突き刺して右手を魔物の方に向ける。


 そう、俺にはケインの『支援』のようなスキルはないが、『支援』並みにチートなスキルはある。


「俺には決定打になるようなスキルがないから、おまえからもらうぞ。決定打になるスキルをな」


 俺はそう言ってから、ぐっと右手に力を入れて構える。


「『スティール』!」


 そうだ。今あるスキルだけで戦う必要はない。


 必要なら奪ってしまえばいいんだ。戦っている相手から。


 それがロイドのみに許された、ロイドだけの戦い方なのだから。


 そして、右手が微かにぱぁっと光るのを感じて、俺は口元を緩めるのだった。



 どうやら、『スティール』は成功したらしい。



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