第21話 アニメと違う展開


「結構登ってきたけど、まだ先が見えないな」


「そうですね。今がちょうど中流くらいの位置ですかね」


 それから、俺たちは森の奥へと進んでいき、川辺の中流付近にたどり着いた。


 ここに来るまでの間に多くの魔物の相手にしてきたが、リリナが『隠密』のスキルを取得したおかげか、スムーズにここまで来ることができた。


 リリナもレベルアップできているだろうし、随分と順調だな。


「というか、この森って結構な数の魔物がいるんだな。一人で中流付近まで来るの大変だっただろ?」


 俺はこれまでの戦闘を思い出して、何となくそんなことを口にする。


 街の近くの森だからそんなに魔物がいないかと思ったが、そんなこともなかったらしい。


 というか、俺に会う前のリリナって、『潜伏』のスキルがない状態でこの付近まで来たのか。


 普通にそれってすごくないか?


「私も驚いてます。大変でしたけど、今回ほど魔物の数はいませんでしたよ」


「そうなのか? いや、数日でそんなに魔物の数が変わることはないと思うんだけどな……」


 リリナの家と森の中で数日を過ごしている間に、森の魔物たちが活性化した?


 全くない話ではないだろうけど、森が活性化するということは何かが起きているということになる。


 状況的に考えて、あまり良いことが起きているようには思えないな。


 最悪、一度引き返して冒険者ギルドに報告した方がいいか?


 いや、下手に報告してしばらく森への立ち入りを封鎖されたら、リリナのお母さんの病を治す秘薬が手に入らないか。


 これは、少し危険でも森の奥へ進んでいくしかないな。


「リリナ。日も暮れてきたから今日はここで休もう。夜に強い魔物と遭遇したら大変だし、俺たちも連戦で疲れてるしな」


 下手に夜の森を散策して、夜行性の強い魔物と遭遇する可能性を高める必要はないだろう。


 俺がそう言ってリリナを見たとき、ぱっと俺の視界を茶色の何かが埋め尽くした。


「は?」


 そして、それが勢いよく近づいてきたところで、俺はようやく何者かに自分が殴られそうになっていることに気づく。


 いやいや、これかなりマズいだろ!


「『跳躍』!」


 俺は咄嗟に覚えていたロイドが人から奪ったスキルから、『跳躍』のスキルを選択して発動させる。


 すると、俺の体は顔に迫ってくる茶色の腕と同じくらいのスピードで後ろに引かれて、そのまま空中に投げ飛ばされた。


「だぁっ! くそっ!」


 受け身の取り方など知らない俺は、そのまま砂埃まみれになりながら地面に転がって、俺を襲ってきた相手の方を見て立ち上がる。


 そして、その姿を見た俺は思わず言葉を失う。


 え? いや、なんであいつがこんな所に?


「ロイドさん!!」


「俺は無事だ! リリナ、急いで俺の後ろに回ってくれ! 『雷斬』!」


 俺はリリナが俺の後ろに避難するまでの時間を稼ぐため、長剣を引き抜いて斬撃を雷にして飛ばす。


「ギギィ!!」


 しかし、俺を殴ろうとした魔物はその斬撃を避けることなく、力づくで殴って俺の斬撃を吹っ飛ばした。


 まったく、どれだけ力任せだよ。


「ロイドさん! 本当に大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない。攻撃を食らってはいないからな」


 心配そうに俺のもとに駆け寄ってきたリリナを俺の後ろに隠して、俺は不意を狙ってきた魔物を強く睨む。


 全身茶色の毛で覆われ俺の二倍くらいある大きな体に、異常に発達した腕の筋肉が特徴的なゴリラのような魔物。


 俺はこいつのことをアニメで見たことがある。


「……おまえ、秘薬探しのイベントのボスキャラだろ。なんでこんな所にいるんだよ」


 そう。そこにいたのは、ケインとリリナが秘薬を見つけたときに突然現れる森のボス的な魔物だった。


 それだというのに、なんでこんな川の中流にこいつがいるんだ?


 何かがアニメと違う。


 そう思わざるを得なかった。


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