第19話 リリナの才能
人気アニメ『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』。
そのアニメ三期では、ヒロインたちが主人公のケインと別々の街に飛ばされてしまう展開がある。
そして、ヒロインたちはケインの『支援』なしで魔物たちと戦うことになり、自分たちの新しい武器を身に着けることになるのだ。
その新しい武器として、リリナはパワー系から正反対にある暗殺者スタイルを自分のものにするのだ。
今はまさにケインと離れ離れという状況。
今ここでそのスタイルを磨かせれば、今後もケインなしでも冒険者としてやっていけるかもしれない。
今後、ケインと共に旅をすることになってもきっと戦力になるはずだ。
「暗殺者ですか? えーと、私にそんな戦い方できるんでしょうか?」
リリナはそう言うと、申し訳なさそうに眉を下げる。
まぁ、いきなり暗殺者っぽく魔物を倒せと言われても戸惑うよな。
俺は小さく咳ばらいをしてから、説明を続ける。
「リリナには優れた鼻と耳がある。それに加えて俊敏な動きもできる。この時点ですでに暗殺者向けのステータスだと思うんだ」
「暗殺者向けですか。えっと、喜んでいいんですかね?」
「もちろんだ。優れていることが複数あるだなんて、素晴らしいことなんだぞ」
俺がそう言うと、リリナは垂れかかっていた銀色の耳をピンッと伸ばす。
このまま頭を撫でてあげたいが、それだと話が進まなくなりそうなので今回は割愛。
俺はそのまま言葉を続ける。
「リリナはそれに加えて狩りの経験がある。『潜伏』のスキルを入手するのも難しくないはずだ」
「『潜伏』ですか。あっ、そういえば、前にお父さんに言われて練習したことありますね。狩りをするにはできた方がいいって言われました」
『潜伏』のスキルというのは、人や魔物に気配を気づかれにくくするスキルだ。
このスキルは一般的には、盗賊や暗殺者の適性がある者しか覚えることができないスキルだ。
でも、確かリリナのように狩りを普段から行っているような環境で生きる種族も覚えることができたんだっけ?
というのも、『潜伏』というのは狩りをする上で重要なスキルだからだ。
魔物の中には敵と出くわした途端に逃げ出す魔物もいる。
そんな魔物を相手に狩りをするとなると、『潜伏』のスキルを使って陰から仕留めた方が狩りの成功率も上がるというものだ。
当然、狩りをする者たちなら覚えておきたいスキルだろう。
「練習していたのなら習得も速いはずだ。秘薬の回収をするまでに『潜伏』のスキルも習得できるようにしよう」
「分かりました。ロイドさまがおっしゃるなら、やるだけやってみます!」
リリナはそう言うと、ふんすっと気合を入れるように鼻息を漏らす。
うん。本人がこれだけやる気になってくれていれば、本当にすぐにスキルを取得できるかもしれないな。
「本当は、俺が近くで俺が見本でも見せられればいいんだけど……」
俺はふむと腕を組んで考える。
あれ? もしかして、ロイドが人から奪ったスキルの中に『潜伏』があったりしないだろうか?
あれだけ多くのスキルを奪っていたのだから、あってもおかしくはない。
「ロイドさま?」
「リリナ。少しだけ待っていてくれ。『ステータス』」
俺はリリナにそう言うと、自分のステータスを開く。
そして、俺は『スティール』で奪ったスキル一覧から、『潜伏』の文字がないか探してみる。
「……あったな」
もしかしたらと思って確認してみたけど、まさか本当にあるとは。
ロイドの奴、一体どんな人からこのスキル奪ったのだろうか?
「ロイドさま? 何かあったんですか?」
「ん? ああ、あったよ。リリナ、少し後ろを向いてくれないか?」
「後ろですか?」
リリナは急に後ろを向くように言われた理由が分からなかったのか、こてんと首を傾げてから静かに後ろを向く。
「十秒したら俺のことを見つけてみてくれ」
「えっと、はい。分かりました」
リリナが頷いたのを後ろから確認して、俺は『潜伏』のスキルを使って近くの茂みに隠れる。
ただ隠れるだけだとスキルの効果が分からないので、振り向いたリリナとちょうど目があるくらいの高さに俺は顔を出す。
それから十秒後、リリナは数を数え終えてから俺の方に振り向く。
「あれ? ロイドさま?」
リリナは正面に俺がいるというのに、俺を見失ったようにキョロキョロと辺りを見渡す。
「どこに行ったんですか、ロイドさまー!」
リリナは俺の返事がないことに少し焦ってから、鼻をスンスンとさせたり耳をピコピコと動かす。
それからしばらくして、リリナは目を細めてじぃっと俺がいる空間を見てから、ハッと何かに気づいたように目を大きく開く。
「あ、ロイドさま! いつからそこにいたんですか?」
「ずっとだよ。『潜伏』のスキルを使ってたんだ」
「ロイドさま、『潜伏』のスキルが使えるんですか?! 凄いです!」
リリナは俺のもとに駆け寄ってくると、キラキラとした目を俺に向けてくる。
まっすぐ尊敬するような眼差しを向けられて、俺は気まずさを覚える。
「いや、俺のはあんまり褒められた感じではないんだけど……」
だって、これってロイドが人から奪ったスキルだし。
とてもじゃないが、俺の『潜伏』は人に誇れるようなスキルではない。
それでも、こうしてリリナに『潜伏』を教えられるのなら、それほど悪くもないのかもしれないな。
「それじゃあ、秘薬を探しながらリリナに教えてあげるか」
俺はそんなことを考えて、リリナの頭を優しく撫でるのだった。
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