第17話 現状把握


 しばらくリリナの頭を撫でた後、俺たちは秘薬を求めて再び歩き出した。


「そういえば、秘薬の場所は知ってるのか?」


「はい。といっても、確証はありません。あくまで、ありそうな場所を目指すという感じですけど」


「いや、それが分かるだけでも助かる。正直、俺はそんなに森のこと詳しくないからな」


 原作知識があると言っても、アニメとかだとカットされている部分が多い。


 ロイドの知識を頼りにしてもいいが、ロイドって基本的に道案内とかは主人公のケインにさせていたイメージがある。


 となると、そこまでロイドの知識に期待しない方がいいだろうな。


「そういえば、秘薬ってどんなやつなんだ?」


アニメでケインたちが秘薬を取りに行くという展開は覚えているが、それがどんな形状の物だったのかまでは覚えていないな。


 俺がそう言うと、リリナはこくんと頷いてから人差し指をピンっと立てる。


「『ポーションハーブ』というどんなポーションにも化ける不思議な薬草です。水の綺麗な上流にある魔力をよく吸う木の下に生えると言われています」


「なるほどな。どんなポーションにも化けるなら、どんな病にでも効くということか」


 そう言われれば、確かにそんな感じの名前の薬草だった気がする。


「上流ってことは、森の奥まで行かないとだな。魔物が多くいるところに向かうことになる」


「そうなりますね。前は中流あたりに差し掛かったところで、急に見えない所から魔物に攻撃されて、崖の下に真っ逆さまでした」


 リリナはそう言うと、申し訳なさそうに頭を掻く。


 ……見えない所から一撃、か。

 

「確か、獣人って危機管理能力が高くなかったか?」


「はい。鼻も効きますし、耳もいいので」


 リリナはそう言うと、鼻をひくひくと動かしてから、耳をピコピコと動かす。


 確か、アニメとかだとケインたちに敵が近づいた時に一番初めに気づくのがリリナだったはずだ。


 俺はふむと腕を組んで考える。


「そんなリリナの不意を突いたのか。これは、思ったよりも苦戦するかもしれないな」


「そうですね。私にもっと力があれば気づけたのかもしれませんけど」


 アニメだとケインのスキル『支援』をかけた状態だったから、輪をかけて危機管理に優れていたのかもしれない。


 つまり、現時点のリリナはアニメで俺が知っているほど危機管理に優れてはないということだ。


 やはり、そうなってくると『支援』のスキルは羨ましいな。


 獣人というのは普通の人間と比べて腕力や俊敏さ、危機管理能力も上だ。


そんな獣人を『支援』のスキルで強化することで、リリナの力を引き出せるのだが、今はその術がない。


 ……少し慎重に森を進んでいった方がいいかもしれないな。


「あっ、ロイドさま。魔物が近いです」


 リリナは銀色の耳をぴくんっと動かしてから、すっと俺の前に手を出す。


 リリナの視線の先を見ると、茂みの奥から小ぶりな猪のような魔物が姿を現した。


 猪は力が強いと聞いたことがあるけど、これからもっと森の奥に進めば恐ろしい魔物たちと出くわすことになる。


 その前に、今のリリナの強さを把握しておかないとな。


「リリナ。あいつの相手をできるか?」


「はい、お任せください! あの大きさは何度か相手をしたことがあります」


 リリナはそう言うと、腰から短剣を引き抜いて構える。


 その立ち姿はあまりにも自然で、無理をしているようには見えない。


 これならリリナに任せても問題はないだろう。


 俺は小さく頷いてから、リリナの肩に手を置く。


「今後に向けて少しリリナの戦い方を見ておきたい。俺は危なくなるまで手を出さないから、できるだけ一人で倒してみてくれ」


「分かりました。ロイドさまにかっこいい所見せちゃいますっ」


 リリナはそう言うと、勢いよく地面を蹴った。


 さて、『支援』のスキルがない状態のリリナがどこまで戦えるのか、見ものだな。


 俺はそんなことを考えながら、リリナと魔物の戦いを見守るのだった。



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