第16話 近づく距離感
「ロイドさま、準備できました!」
「よっし。それじゃあ、行くか」
リリナの家に泊まって数日後。
リリナの体調が全快したのを確認してから、俺たちは秘薬を探しにいくことになった。
リリナのお母さんにもお願いされたし、ここは踏ん張りどころだろう。
主人公補正のない俺にどこまでできるかは分からないが、ロイドだってC級冒険者並みの実力がある。
それに加えて、人や魔物のスキルを奪う『スティール』だってある。
きっと、主人公じゃない俺でも、リリナを守ることくらいはできるはずだ。
「まずはリリナの力がどれほどなのか把握しないとな。リリナは魔物と戦った経験はあるか?」
「戦闘経験ですか? 昔、死んじゃったお父さんに教わって、少し狩りをしたことがあるくらいですね」
「なるほどな。うん、狩りの経験があるというのはでかいな」
うん、アニメの情報通りだな。
俺は想定通りのリリナの回答を聞いて、こくんと頷く。
魔物と言っても、相手は生き物だ。
生き物を殺めるということには変わりはないので、どうしても初めて戦うとなると抵抗がある。
魔物と戦ったことのない俺がサラっと魔物を倒すことができたのは、ロイドの体が魔物と戦う術と心持ちを覚えていたからだろう。
だから、今のリリナに魔物と戦ったことがないと言われたら、その訓練からやる必要があると思った。
だが、どうやらその心配はいらないらしい。
多分、俺と比べ物にならないくらい、魔物と対峙しているはずだ。
「ロイドさま。私、ロイドさまの役に立てそうですか?」
「ああ。期待しているぞ」
「えへへっ」
俺がそう言うと、リリナはにへっと顔を緩ませた笑みを浮かべる。
……そういえば、随分と砕けた表情を見せるようになったな。
リリナの家に泊まって数日を過ごす中で、リリナとの距離が凄く近づいた気がする。
呼び名と敬語は相変わらずだけど、ふとした表情や口調の柔らかさが初めて会たっときとは段違いで違っている。
なんだかすごく懐かれた気分だ。
銀色の耳がピコピコとご機嫌に揺れる様子を見ていると、昔飼っていた犬のことを思い出す。
……なんか触り心地が良さそうだな。
そんなことを考えていると、俺は自然と引きつけられるようにリリナの頭に手を置いていた。
そして、昔飼っていた犬を思い出すように、優しくその頭を撫でていた。
おお、素晴らしい撫で心地だ。
「んっ」
「ん? え、あっ、わ、悪い!」
俺はリリナの漏らした声を聞いて、自分がとんでもないことをしでかしたことを悟る。
おおお、マジか、俺。自然と女の子の頭を撫でるなんて普通できることじゃないだろ。
俺はそんなことを考えて、慌てるようにリリナの頭から手を引く。
「あっ……」
俺がリリナの頭から手を引くと、リリナは残念がるような声を漏らした。
ん? 残念がる?
普通に考えたら、アニメの悪役に頭を撫でられて喜ぶ女の子なんていないだろう。
それは分かっているのだが、リリナは俺に名残惜しそうな目を向けている。
気のせいには思えないんだけど、どういうことだろうか?
俺が首を傾げていると、リリナは意を決したように自分の両手をきゅっと握る。
「あの、ロイドさま。私たち獣人は、心を開いた相手に頭を撫でられて嫌がる者はいません」
「そう、なのか」
「はい! そうなんです!」
リリナはそう言うと、ふんすっと前のめり気味になる。
……これは、俺に頭をなでろと言っているのだろうか?
俺がゆっくりとリリナの頭に手を伸ばしていくと、リリナは俺の手を見つめながら可愛らしく耳をピコピコとさせる。
そのまま俺がリリナの頭を撫でると、リリナは満足したように表情を緩める。
「にへっ」
そして、そんな笑い声を漏らしてから、尻尾をご機嫌そうにフリフリとさせた。
……いや、可愛過ぎないか。
「~~♪」
というか、なんか懐かれ過ぎてないか?
俺はそんなことを考えながら、撫で心地が良すぎるリリナの頭を優しく撫で続けるのだった。
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