第14話 少しの恩返し


「凄いです、このポーション! 体の痛みが嘘みたいに引きました」


 箱に入っていたポーションをぐいっと飲んだリリナは、目を見開いてその効果に驚いていた。


 手のひらをグーパーにしたり、軽く肩を回したりしてもどこも痛くないらしい。


 どうやら、値段の分だけちゃんと効果もあるようだ。


「そうか。そりゃあ、よかったよ」


 小躍りでもし出しそうなリリナを見て、俺は少し笑う。


「でも、数日は安静にしていてくれよ。秘薬を取りに森に行くのは、少し体を休めてからにしよう」


「あれ? 私が秘薬を取りに行こうとしてたこと言いましたっけ?」


 俺の言葉を聞いて、リリナはきょとんとした顔で俺を見る。


 ……そういえば、まだ本人の口からは聞いてなかったんだっけ?


「あれだ、寝言でいろいろ言ってたから。お母さんのために秘薬をって」


「あ、なるほど」


 俺が適当にそう言うと、リリナは納得したように頷く。


 どうやら、上手く誤魔化せたらしい。


「今度は俺も一緒に行くから、無理して一人で行かないようにな」


「え?! 手伝ってくれるんですか?!」


「当たり前だ。一人で秘薬を取りに行くのが無理なことは身をもって学んだだろ?」


「そ、それはそうですけど……」


 リリナは躊躇いがちに俺をちらっと見てはくるが、俺からの提案に首を縦に振らない。


 おそらく、さっきのポーション同様に遠慮しているのだろう。


 ふむ、どうしたものか。


 俺は少し考えてから、おどけるような笑みをリリナに向ける。


「さっき人生をかけて恩を返すって言っただろ? それなのに、秘薬を取りに行って死なれたらたまらんからな。リリナには生きていてもらわないと困る」


 さっきと同じようにロイドっぽく言えば、提案を受け入れてくれるだろう。


 そう考えて言ってみると、リリナは先程同様に笑い声を漏らす。


「くすっ、分かりました。そういうことでしたら、甘えさせてください」


「ああ、そうしてくれ。二日三日くらいは安静にしていてくれ。俺もどこまで戦えるか分からないから、リリナも体調を万全にしておいて欲しい」


 アニメではケインの支援魔法でリリナを強化して、秘薬までの道のりの魔物を倒していた。


 そのチート級の支援魔法も、主人公補正もない俺がどこまでやれるのか。


 正直、まるで見当がつかない。


「そうですね。分かりました」


 リリナは俺の言葉に頷いてから、自然な笑みを浮かべる。


 とりあえず、これでリリナを死なせてしまうという最悪な事態は免れたみたいだ。


「じゃあ、また数日後にこの家に来るよ」


「え? どこか行かれるんですか? 何かご予定が?」


 俺がリリナの家を後にしようと立ち上がると、リリナが不思議そうな顔で俺を見る。


「予定は別にないけど、ご馳走になったから宿にでも帰ろうかと。……安宿も探さないとだしな」


 お金を手に入れてもすぐにポーション代に消えてしまったので、もっと生活を切り詰める必要がある。


 今泊っているところよりもランクを下げないと……まぁ、最悪屋根があるとこなら馬小屋とかでもいいか。


「それでしたら、うちに泊まっていってください! 狭くて恐縮ですけど、ご飯もお出ししますよ!」


 俺がそんなことを考えていると、リリナがずいっと前のめりになりながらそう言ってきた。


 積極的な申し出に驚きながら、俺は頬を掻く。


「え、いいのか? さすがに悪い気もするんだけど」


「いいえ、悪くなんてありません! 少しでも恩返しをさせてください!」


 俺が首を縦に振らずにいると、リリナは俺の手を握って俺を見つめてきた。


 位置的に上目遣い気味な視線を送られてしまい、俺は断ることができなくなる。


「お、おう。そういうことなら、お願いしようかな」


「はい、そうしてください!」


 リリナはぱぁっと明るい笑みを浮かべると、もう少しだけ強く俺の手を握る。


 ……これがヒロインの力か。


 不覚にも速まりそうだった鼓動に気づかないフリをして、俺は小さく頷くのだった。


 こうして、俺はリリナの体調が万全になるまでの数日間をリリナの家で過ごすことになった。



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