第11話 リリナの実家にて


「おお、ここがリリナの家か」


 俺はリリナに案内してもらって、リリナの家に来ていた。


 お世辞にも大きいとは言えない家ではあるが、自然と調和したような良い造りをしている。


 そういえば、リリナの家は少し街から外れた所にあるんだったな。


 窓から見える木々を眺めながら、俺はそんなことを思い出していた。


「はい。小さい所で申し訳ないですけど、くつろいでいてください。少しだけ外しますね」


 リリナは俺に申し訳なさそうに言うと、俺を部屋に残して奥の部屋に行ってしまった。


 その表情は初めに俺に向けていたような脅えたものではなくなっていた。


 これも、道中で色々と話したおかげだろう。


 ……うん、ヒロインに脅えられるって結構ショックだったから、早めに距離が縮まってよかったぞ、本当に。


 俺はそんなことを考えながら、リリナが入っていった部屋を見つめる。


 ……あそこが母親が寝ている部屋か。


 アニメの話通りなら、リリナは病気の母親のために秘薬を求めて森を彷徨っていたはずだ。


 耳を少し済ませると、リリナが誰かと会話をしているのが分かった。


 大人の女性声だな。


 どうやら、状況的に見てアニメと変わらない展開みたいだ。


 主人公のケインがリリナを助けるところ以外はな。


 主人公の代わりに悪役がヒロインを助けるってどんな展開だよ、本当に。


 俺はそんなことを考えながら、リリナから貰ったお茶を飲んでリリナを待つことにした。


 それからしばらくして、リリナがパタパタと俺のいる部屋に戻ってきた。


「すみません、お待たせしました。今からクッキー作るので、ゆっくりしててください」


「そんな急がないでいいって。ていうか、俺も何か手伝おうか?」


「いえいえ! お客様にそんなことはさせられませんから!」


 リリナは顔の前で手をブンブンと振って、椅子から立ち上がった俺を制した。


「いたっ」


「リリナ?! やっぱり、まだ痛むのか?」


「い、いえ、少しなので問題ないですよ」


 俺が慌ててリリアの容態を見ようとすると、リリナは誤魔化すように笑みを浮かべて自身の手を撫でる。


「昨日あれだけ怪我をしたんだから、一日やそこらで回復しきるはずがないよな。無理してクッキー作らないでいいって。寝てた方がいいんじゃないか?」


「いえ、せっかく楽しみにしてくれているので作らせてください。それに、人獣って回復も人間よりも早いんですよ」


 リリナはおどけるように笑っているが、その笑顔が少しぎこちない。


 無理をしているのだということは丸分かりなのだが、そこを指摘しても意固地になられてしまう気がした。


 とりあえず、追加のポーションが必要だろう。


でも、ポーションを用意するにも、もう金がないんだよなぁ。


「ん?」


 そう考えたとき、首元に何か違和感がある気がした。


「あっ、まだあった」


「ロイドさん?」


「少し待っててくれ。うん、クッキーが焼けた頃に戻ってくるからさ」


 どうやら、まだ装飾品を身に着けていたみたいだ。


 俺は首飾りをぎゅっと握って、首を傾げているリリナを残して一度街に戻ることにした。





「どんどん手持ちの物がなくなっていくなぁ」


 俺は街までの道中で一人そんなことを考える。


 初めて会った子にここまでする意味はあるのだろうか?


何も知らない人が今の俺を見れば、きっとそう思うのだろう。


しかし、俺からしたら何をしてでもリリナを助けたいという強い思いがあるのだ。


俺のしていることは聖人君主のようなものではなく、一方的に感じた恩を返しているだけだ。


 俺が悪役に転生してしまったのも、俺がアニメの主人公のように正義感だけで動けないからなのかもしれない。


 そんなことを考えながら、俺は苦笑いを浮かべるのだった。

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