第10話 街中の嫌われ者


「噂のって、どんな噂だ?」


「え、ええっと……」


 俺がそう聞くと、リリナは気まずそうに俺から視線を逸らす。


 その反応を見るだけで、何となく察しがついてしまった俺は少しだけ俯いてしまった。


 どうやら、ギルドの嫌われ者という認識は間違っていたみたいだ。


 ロイドの悪評はギルドだけで収まることなく、街全体に広まっているらしい。


 そう言われれば、確かアニメでも市場で異常なくらいに値引きをさせたり、店の物に当たるシーンなんかもあった気がする。


 そりゃあ、悪い噂も広がるよな。


「はぁぁ」


 そうだよな。悪役転生だもんな。


 俺が深くため息を漏らすと、リリナは小さくびくっと体を跳ねさせた。


ちらっと表情を窺うと顔が強張っている。


どうやら、怖がらせてしまったみたいだ。


 ため息一つでそんなに驚かなくてもいいのになぁ。いや、作中のロイドの性格を考えれば、怖がらない方がおかしいのかもしれないな。


「あれ? このポーションの瓶って……」


 俺がそんなことを考えていると、リリナがあたりに落ちているポーションの空瓶の存在に気づいたようだった。


 数にして十数本くらいだろうか?


「ん? ああ、心配するな。ちゃんとごみは持って帰るから」


「ごみ? え、これ全部空瓶ですか?! もしかして……これ、全部私に?」


「まぁ、そうだけど」


 何に驚いているのか分からないが、リリナは目を見開いてポーションの空瓶を見ていた。


 リリナはそのまましばらく固まった後、ハッとしたように俺に視線を戻す。


「な、なんでこんなにポーションを使ってくれたんですか?」


「なんでって、使わなかったら死んでただろ、おまえが」


「そういう意味じゃなくて! これだけのポーションって、いくらしたんですか? 結構しますよね?」


「まぁ、それなりにはな」


 無駄にあった装飾品を売った金をそのままポーションにつぎ込んだので、額としてはそれなりの額がいってしまった。


 ただそのおかげもあってか、傷だらけだったはずのリリナの体に目立つ傷は残っていなかった。


 さすが、ポーションというだけはあるな。


急いでいたから、店にある奴を適当に選んで買ってきたが、結果としていい方向に転んだらしい。


 まぁ、あれだけの状態だったわけだから、まだ体の内側まで完治しているかどうかは怪しいけどな。


 俺がポーションの治癒の効果に感心して頷いていると、ばっと勢いよくリリナが頭を下げてきた。


「すみません。助けてもらったのはありがたいのですが……返せるだけのお金がなくて、」


「ん? ああ、それは気にするなって。そんなの知ってるから」


「え?」


 リリナの暮らしが裕福でないことは、アニメを観てきた俺には分かっている。


 だから、特に見返りを求めたわけではないと言って安心させようとしたのだが、リリナはきょとんとした顔を俺に向けていた。


ああ、そうか。リリナの家の経済状況を知ってるのはおかしいか。


 俺は少し考えてから、それっぽいい訳を述べることにした。


「冒険者でもないのに魔物がいる森の中に入ろうってのはおかしいだろ。金があるのなら、冒険者ギルドに依頼を出せばいいんだからな」


「え? あ、そ、そうですね。なるほど」


 リリナは納得してくれたのか、こくんと頷いてから俺をじっと見る。


 ……なんでそんなに見られてるんだ、俺。


 しばらくの間真剣な瞳で見つめられた後、リリナはうんっと小さく頷く。


「あの、大したお礼はできませんけどよかったら家に来ませんか? クッキーくらいはお出しできるので」


「クッキー? あ、あのクッキーか!」


 俺は少し首を傾げてから、思い出すような声を漏らして勢いよく立ち上がる。


 主人公のケインがリリナと共に秘薬を取りにいった帰り、お礼にと家に招かれてクッキーを貰うというシーンがあった。


 確か野いちごとかの果物が使われていて、凄い美味しそうだったことを覚えている。


 まさか、異世界作品の聖地巡礼ができるとは!


「行こう行こう! あのクッキー食べてみたかったんだよ!」


「そ、そんなに期待されるほどのものじゃないですよ? でも、くすっ」


「ん? どうした?」


 俺がワクワクとした様子でいると、リリナは少し戸惑ってから笑い声を漏らした。


 何かおかしなところがあっただろうか?


 そう考えて首を傾げると、リリナは慌てるように笑みを隠す。


「な、なんでもないです。行きましょうか」


「おう。案内を頼む」


 こうして、俺はヒロインのリリナを助けたお礼として、クッキーをいただきにリリナの実家にお邪魔することになったのだった。



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