第9話 悪役、ヒロインと出会う
俺は冒険者ギルドを出るなり、街を出て森の中を走っていた。
ふとこのアニメの世界のヒロインたちがどうなるのか気になった俺は、そこで重要なことを思い出した。
そして、その結果最悪の事態を想定してしまって、居ても立っても居られなくなって、夜の森の中でヒロインを探していた。
このアニメで最初に出会うヒロインは、リリナという人獣キャラだ。
銀色のもふもふとした耳と、ふりふりとした尻尾が特徴的な中学生くらいの女の子。
犬のように人懐っこい性格をしていて、主人公と最も距離が近いヒロインだ。
確か、主人公とリリナは森の中で出会うのだ。
リリナが病で倒れた母親のために秘薬と言われる薬草を摘みにいったとき、魔物に襲われそうになる。
そこに主人公のケインが助けに入って、二人で協力して魔物を倒して、薬草を摘みに行くのだ。
そして、母親と自分を助けてくれたことに恩を感じて、主人公に恩を返すために一緒に旅をすることになる。
「本来のアニメなら、そうなるはずなんだけどな……」
でも、本来なら追放されるはずのケインが追放されず、パーティに残ることになった。
そうなった場合、リリナは一体どうなるのか?
主人公の助けが入らない場合、リリナは一人で魔物を倒せない。
……明らかにマズいよな。
最悪の事態を考えてしまい、俺は息を切らしながら森の中でリリナの姿を探していた。
「頼むから、無事でいてくれよ」
もしものために色々と買ってはきたが、使わないに越したことはない。
俺はそんなことを祈りながら、暗い森の中をランプで照らしながら歩いていく。
すると、崖の下で小さな影が蹲っているのを見つけた。
「あれは……っ」
俺は目を凝らしてその小さな影をよく見てから、勢いよく駆けだした。
すぐ近くまで来て、ランプでその姿を照らしてから、俺は歯ぎしりをする。
「はぁ、はぁ、嘘だろ。悪い冗談はやめてくれよ」
そこにいたのは、体が傷だらけになっているリリナだった。
傷跡が痛々しく、まだ血が止まっていない個所も多々ある。
「おい、リリナ! 生きてるか?!」
「っ……」
俺が体を揺すると、リリナは痛がるように微かに顔を歪ませた。
息はあるみたいだけど、目は閉じたままで意識があるのかも怪しい。
駆け付けるのが数時間遅れていたら、どうなっていたか分からないくらい重傷だ。
「色々買ってきておいて正解みたいだったな」
俺は鞄をドカッと置くと、そこから色々と買ってきたポーション類を取り出す。
ろくに手持ちの金はなかったが、無駄にあった装飾品を売ることで資金の調達をすることはできた。
いつもケインの分まで報酬を奪っていたはずなのに、なんでこんなに手持ちが少ないんだろうな、本当に。
俺は買ってきた包帯をポーションに浸して、痛々しい傷がある所に包帯を巻いていく。
「……本当は少しでも飲んで欲しいんだけどな」
確か、このアニメではポーションを飲んでいた記憶がある。
きっとポーションは飲むのが正しい使い方なのだろう。
「意識が戻るまでは、ちまちまポーション付けた包帯を変えて看病するしかないか」
さすがに、意識がない人にポーションを流し込むのは危険だよな。
いや、少しでも体内から吸収してもらった方がいいのか?
そう思ったので、俺は痛々しい体を少し抱いて、口にポーションを少し流し込んだ。
「っ……んっ」
「そうだ。少しずつでいいから飲んでくれ」
リリナの喉がコクッと小さく動いたのを確認して、俺はまた少量ポーションを流し込む。
そんなことを繰り返したり、ポーションを浸した包帯を巻きなおしたり、襲ってこようとする魔物を追い払ったりしているうちに、あっという間に夜が明けてきた。
リリナは明け方にはすっかり寝息も落ち着いて、心地よさそうな顔で眠っていた。
そんな寝顔を見て緊張感の糸が切れたのか、急に襲ってきた睡魔に負けるように瞳が重くなってきた。
「あのー……あのー」
「ん?」
俺は体を揺らされて、すっかり寝てしまっていたことを思い出した。
「あ、やべっ、寝ちゃってた」
慌てて目を開けると、そこには申し訳なさそうに俺を覗き込む顔があった。
「私を助けてくれたんですよね? ありがとうございます」
「っ」
そこにいたのは、画面越しに何度も見たリリナだった。
整った可愛らしい顔に覗かれて、俺は一瞬言葉を失った。
ぴんっと立った銀色の耳も、ふりふりと可愛らしく動いている尻尾はアニメで見たリリナそのものだった。
俺が何も言えずにいると、リリナは首を傾げてから何かに気づいたような声を漏らす。
「あれ? 金色の髪にルビー色の耳飾り……もしかして、噂の『竜王の炎』のロイドさん、ですか?」
そして、リリナの眉が微かに下がったのを見て、俺はまた別の意味で言葉を失うのだった。
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