第3話 適正な冒険者ランク
そして、翌日。
「えっと、もう一度お願いします」
「ですから、冒険者ランクを下げて欲しいんですって。C級くらいに」
「聞き間違いですかね? あの、もう一度お願いします」
「いや、だから――」
俺は冒険者ランクを適性のランクに下げてもらうために、再び冒険者ギルドに来ていた。
俺の記憶が正しければ、冒険者ギルドも薄々はロイドたちの実力に気づいていたはずだ。
だから、自分から申し出れば簡単に下げてくれると思っていたのだが、そう簡単にはいかないらしい。
「いつもいつも『なんで俺がS級じゃないんだ!』と騒いでいたはずなのに、急に冒険者ランクを下げて欲しいだなんて、ロイドさん一体どうしたんですか?」
「いや、その、色々と思うところがありまして」
胸にエナと書かれたネームプレートを付けたギルド職員は、ジトっと何かを疑うような目を俺に向けている。
ちらっとエナさんの後ろに目を向けると、他のギルド職員たちも何やら冷たい目をこちらに向けていた。
……どうやら、ロイドはギルド職員にもしっかりと嫌われているらしい。
まさか、ギルド職員に冒険者ランクが上げろとクレームを入れていたとは、思いもしなかったな。
「色々と、ですか」
「そうですよ。というか、俺たちの本当の実力がA級じゃないことくらい知ってるでしょ」
「え……い、いえ、そんなことは、ないですけど」
俺がそう言うと、エナさんはふいっと気まずそうに顔を背けた。
どうやら、俺の記憶は正しかったみたいだ。
これなら、もう少し押せばいけるだろう。
「とにかく、お願いしますよ。身の丈に合わない冒険者ランクなんていらないですから」
「……わかりました。そこまで言うなら、冒険者ランクの降格の申し出を受理します」
俺が両手を合わせてお願いすると、エナさんは目をぱちくりとさせてそう言った。
こうして、俺はケインにざまぁされる前に冒険者ランクを自ら下げることに成功したのだった。
よっし、これでいいんだ。
変に冒険者ランクが高いままだと、ケインにいつざまぁされるか分からないからな。
「あ、あと、『竜王の炎』も抜けるんで、その手続きをお願いします」
「え?! 抜けるんですか?! いや、あそこのリーダーって、ロイドさんですよね?!」
エナさんの驚く声が聞こえたのか、後ろの職員たちがザワザワとし始めた。
まぁ、驚くのも無理はないか。
俺は目を見開いているエナさんを見ながら、言葉を続ける。
「後任として、リーダーにケインを指名したんで問題はないと思いますよ」
「え?! ケインさんをですか?! な、何がどうしたら、そんなふうになったんですか?」
困惑するエナさんにどう説明しようかと考えていると、冒険者ギルドの扉が勢いよく開けられた。
そして、そこにいたのはケインたち一行だった。
「ケイン! おまえ凄い奴だったんだな!!」
ケインの少し後ろを歩いて煽てているのは、盾役のザード。
そして、その少し前にはケインがいて、その両サイドにはレナとエミの姿があった。
あれ? 二人ともケインと腕を組んでないか?
「ちょっと、こんなに強いなんて聞いてないんだけどー。今日はケインのリーダー就任のパーティーしないとね」
「ケインさんは陰ながら私たちを守ってくれていたんですね。かっこいいです」
昨日までのケインの扱いはどこへやら、ケインは前のロイド以上にパーティで煽てられていた。
……分かりやすい手のひら返しだな。
「そ、そんな、みんなのおかげだよ」
そんな事を考えながら、照れくさそうに顔を赤らめる姿を見て、俺は安堵の笑みを浮かべる。
少しだけ心配だったが、これならケインもあのパーティで上手くやっていけるだろう。
そして、上手くやっていければ、俺にざまぁをしようだなんて思わないはずだ。
「あ、そうでした。できれば、どこかのパーティ紹介してもらえたりしませんかね?」
俺はケインたちが楽しそうにやっているのを横目に、レミさんの方に視線を戻す。
すると、レミさんは気まずそうに頬を掻いていた。
「えーと、それは難しいですね」
「難しい? 駆け出し冒険者のパーティとかでもいいんですけど」
「いえ、そういう問題ではなくてですね……ケインさん以外の『竜王の炎』の皆さんは、他の全パーティからNG出てるんで紹介はできませんよ」
「……え?」
俺は思ってもいなかった言葉を前に、間の抜けた声を漏らしてしまった。
どうやら、人の心配をしている場合ではないらしい。
そして、俺はようやく自分が悪役に転生したのだということを実感することになるのだった。
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