第2話 追放者は俺


「ちょ、ちょっと、何その冗談! つまんないって!」


「そうだぞ、ロイド! おまえが追放? 何の冗談だ?」


「ロイドさんはこのパーティの要であり、リーダーですよ! 抜けるなんて何を言ってるんですか!」


 俺は抜ける宣言をしてその場を去ろうとしたのだが、どうやらそんな簡単にはいかないらしい。


俺はパーティメンバーに肩を掴まれて揺らされたり、必死に残るように懇願されたりしていた。


 しかし、どれだけ頼まれても俺がこのパーティに残ることだけはできない。


 というか、ケインの側にいたら俺の破滅エンドまっしぐらだから、少しでも早くこの場から去りたいくらいだ。


「話の流れ的に役立たずを追い出すんでしょ?! どう考えても、このパーティの役立たずはケインじゃん!」


 レナはビシッと力強くケインを指さして、ケインを強く睨む。


 俺はそんなレナの手をそっと下ろさせてから、首を横に振る。


「いや、違う。ケインは素晴らしい後衛職だ」


「は? 何言ってんの?」


 レナは俺の言葉に困惑するように眉を下げる。


 そうだ、重要なことを忘れるところだった。


ただケインのもとを去るだけでは、後で追いかけてざまぁされるかもしれない。


俺がケインにざまぁされない方法はただ一つ。


「本当はケインは凄いやつなんだ。俺はその凄さを引き出せなかった。だから、俺がこのパーティを去るんだ! リーダーとして責任を取らなくてはならない!」


 これまでして悪行以上に、ケインを煽てて立てることだ。


 俺がぐっとこぶしを握りながらそう言うと、俺以外のみんながぽかんとしてしまっていた。


 まぁ、今まで無能扱いしていた奴を突然凄い奴だと言われてもピンとこないだろう。


 それなら、一から説明するしかないか。


 俺は小さく咳ばらいをしてから、口を開く。


「いいか? ケインの『支援』は普通のスキルではない。これはユニークスキルと言って、ケインしか持っていない特別なスキルなんだぞ」


 俺の言葉を聞いたパーティメンバーは目をぱちくりとさせてから、互いの顔を見合わせていた。


 しかし、俺の言っている言葉が信じられないのか、すぐに怪しむような目を俺に向ける。


 どうやら、その中でもレナが一番怪しんでいるみたいだ。


 レナは一歩前に出ると、再びケインをピシッと指さす。


「確かに、ケイン以外に『支援』を使う人は見たことないけど、別に強いわけじゃないでしょ?」


「いや、強い。その証拠に俺たちがA級でいれるのもケインのスキルがあるからだ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。それはさすがに言い過ぎだろ」


 俺が当たり前のように言うと、ザードが慌てるように入ってきた。


 確かに、スキル一つで本来の冒険ランクの二段階上の力を手にすることができるなんて思いもしないだろう。


 そう、本来は俺たちの冒険ランクはC級くらいの強さが適正なのだ。


 冒険ランクとは、冒険者の強さによって数段階に分けられるランクのことだ。


依頼の達成回数やギルドへの貢献度、そして、冒険者の実力によって決まる。


本来はロイドたちはC級の強さしかない。


 それでも、冒険者ランクがA級になれたのは、ケインの『支援』があったからだ。


 その証拠に、ケインが抜けたあと、パーティメンバーは皆C級に下げられることになるのだ。


 まぁ、そうは言っても信じてはくれないだろうな。


 俺はふむと考えてから、人差し指をピシッと立てる。


「今度ケインのスキルなしでA級並みのクエストを受けてみろ。すぐにケインの凄さが分かるだろうからな」


「それは、本当で言っているんですか? 冗談とかではなく」


「ああ。本気だ」


 エミの言葉に俺が真面目に頷くと、皆は黙り込んでしまった。


 多分、まだ俺の言っていることを信じたわけではないだろう。それでも、俺が本気で言っているのだということは伝わったみたいだ。


 まだ困惑しているようだが、今はこのままでいいだろ。


 問題は、放置されているケインの方だ。


 俺がぱっとケインの方を見ると、ケインも他のパーティメンバーと同じく俺の言葉を信じていない様子だった。


 いや、というよりも急に態度が変わったロイドに驚いているのかもしれないな。


 俺は咳ばらいをしてから、テーブルに置かれていた今回の報酬の全部をぐいっとケインの方に動かす。


「今まで辛い思いをさせてすまなかったな、ケイン。これで、ケインの気が収まるとは思わない。だが、これで少しでも怒りを抑えてもらえたら嬉しい」


「え?! こ、これでって、どういうことだ?」


 ケインは突然の俺の行動に驚きながら、目を見開いて報酬に目を落していた。


「え、ちょっと、これ今回の報酬でしょ?! なんでケインに全部渡すのよ!」


「何もしてないのは俺たちの方だったんだよ。今までのケインの扱いを受ければ、これでも少ないくらいだ」


 不満がありそうなレナをじろっと睨んでから、俺は自分の指にはまっていた高そうな指輪を外して、テーブルに置く。


「少ないとは思うが、これも足しにしてくれ」


「た、足しにって……」


「今までがおかしかったんだよ。本当にすまなかった」


 俺は困惑するケインに深く頭を下げてから、振り返って他のパーティメンバーに向かって片手を上げる。


「じゃあ、元気でなおまえら」


「ちょっと、ロイドさん! リーダーのロイドさんが抜けたら、このパーティはどうなるんですか?!」


 慌てるようにエミに言われて、俺はふむと少し考える。


「リーダーか。うん、リーダーはケインに任せたい」


「え、お、俺? いや、さすがにそれは、」


「ケインのスキルなしでA級のクエストを受ければ、すぐにみんなはケインをリーダーにしたいというはずだ」


 戸惑うケインの顔を説得しようとするが、ケインは中々首を縦に振らない。


 俺がどうしたものかと困っていると、見かねたザードがため息を漏らす。


「そこまで言うなら、クエストを受けてみてもいい。それでケインをリーダーだと認められなかったら、またすぐに帰って来てくれよ、ロイド」


「ああ、それでいい。約束するよ」


 そんな言葉を残して、俺はその場と『竜王の炎』から去ったのだった。


 こうして、俺はケインをパーティのリーダーにして、自分が追放されることでざまぁ展開から逃れることに成功したのだった。


 成功、したんだよな?

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