追放系の悪役パーティのリーダーに転生したので、ざまぁされる前に自分を追放しました。~スキルを奪う『スティール』って悪役過ぎるけど強すぎる~

荒井竜馬

第1話 悪役転生

「おい、ケイン。お前は今日何かしたのか?」


 クエストを終えて冒険者ギルドに戻った俺たちは、併設されている酒場で今日の報酬を分けあっていた。


 いつも通り、ケインを除くパーティメンバーで分けた後、残った端数をケインに投げつけてやったが、ケインの奴は不満そうな顔で俺を見ている。


「ちゃ、ちゃんと荷物持ちや支援魔法を使ってみんなをサポートしていただろ」


 ケインの言葉の後、一瞬の間があって俺たちは噴き出すように笑う。


「サポート? ただ俺たちに隠れて『支援』のスキルを使っていただけだろ? おまえの『支援』なんてなくても変わんねーっての」


「私たちはA級冒険者ですよ? F級冒険者のあなたの『支援』なんて誤差ですよ、誤差」


 盾役のザードと、神官のエミはケインに嘲笑を向ける。


「そ、それは、そうかもしれないけど……でも、」


「でも、なに? 何もしない後衛って、いる意味あるのかなー?」


 魔法使いのレナの言葉にケインは言い返すことができず、言葉に詰まって顔を俯かせてしまった。


 ちらっと見えたケインの悔しそうな表情を見て、俺は口元を緩ませる。


「そうだな。そろそろ潮時だろう」


「え?」


 ケインは俺の言葉を聞いて勢いよく顔を上げる。


 これから言われることを察したのか、ケインの顔は青くなっている。


 俺はグラスに残っている酒を一気に呷ってから、グラスをドンッとテーブルに叩きつけた。


「今まで大目に見てきてやったが、我慢の限界だ。無能はこのパーティ『竜王の炎』にはいらない」


「ま、待ってくれ、ロイド! 頼むから、追放だけはやめてくれ!」


 絶望にケインの歪む顔を見ながら、俺は笑みを深くして言葉を続ける。


「あばよ、ケイン。今日をもってパーティから――今日を、もって……ん?」


 あれ? 何か既視感を覚える展開だな。


 そう思った瞬間、突然日本という国で生活をしていた記憶が頭に流れてきた。


 そうだ。確か、クソブラック企業で日を跨ぐまで仕事をした後、やけ酒をして千鳥足で近くのコンビニにつまみを買いにいったんだ。


 そして、つまみを買った後……あれ、どうなったんだ?


なんで俺は異世界アニメみたいな世界にいるんだ?


「ロイド? どうしたの?」


「え、ロイド? 俺が?」


 俺が目の前の事態に混乱していると、ピンク髪の女の子がひょこっと俺の顔を覗いてきた。


 ローブを着ているし、まるで異世界アニメの魔法使いみたいな格好だ。


「あれ? なんか見覚えがある顔してるな」


「見覚えがあるって、当たり前でしょ。私たち、パーティなんだから」


「パーティ?」


 俺は首を傾げてから、あたりを見渡す。


 すると、ローブの女の子の他にも筋肉質の兄ちゃんや、神官みたいな恰好をしている女の子が俺のことを心配そうに見ていた。


 さらに、もっと周りを見てみると帯刀している人たちもちらほらといる。


 少なくとも、ここが日本ではないことは確定だろう。というか、何度も見てきた異世界アニメの世界そのものじゃないか。


 ていうことは、俺は異世界転生したってことになるのか?


……おお! 夢にまで見た異世界転生だ!


転生したってことは、異世界アニメの主人公みたいな生活を送れるってことだろ! 


やったぜ!! クソみたいな現実とはおさらばだ!


 俺がぐっと力強くガッツポーズをすると、そんな俺のことをぽかんと見ている男と目が合った。


 黒髪でひ弱そうな見た目をしている男。


 あれ? この男、どこかで見たことがあるな。


「ん? もしかして、ケインか?」


 見覚えがあると思ったら、人気アニメ『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』の主人公、ケインだ。


 追放系ざまぁ展開が売りの異世界アニメで、ヒロインたちも可愛いアニメ。


俺も何周もアニメを観るくらいハマったなぁ。


 俺がうんうんと頷いていると、ケインは首を傾げる。


「そうだけど……ロイド、突然どうしたんだ?」


「ん? ロイド? どこにロイドがいるんだ」


 ロイドというのは、主人公をパーティから追放させる悪役リーダーだ。


 主人公の支援魔法のおかげでパーティが強くなって、A級冒険者になったというのに、その凄さに気づけない愚か者だ。


 そして、ケインにざまぁをされて、力も名誉も失って闇の力に手を出して、最後はケインに殺される。そんな認めない情けない奴なのだ。


 まったく、ああはなりたくないものだ。


「どこにって、君がロイドじゃないか」


「……え?」


 ケインに言われて、俺は慌てるように自分の顔と髪を触りながら窓に映る自分の姿を見る。


 金髪のツンツンとした上げられた髪に、ギロッと威圧感のある目つき。ルビー色をしている耳飾りに、腰にぶら下がった長剣。


 窓に映っているのは、『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』の悪役ロイドの姿だった。


 ……これって、もしかして、ただの異世界転生じゃなくて、悪役転生?


「嘘だろ?! 俺がロイドなのか?! よりによって、なんでロイドだ!」


『最強の支援魔法師、周りがスローライフを送らせてくれない』には、魅力的なキャラもたくさんいるはずだ。


 それなのに、なんでよりによってざまぁされる側なんだよ!!


「急に何言ってんのよ、ロイド。話しの途中で変な冗談はいいから」


「え? 話の途中?」


 俺が頭をガシガシと掻いていると、ローブの女の子がため息まじりに呆れた顔を俺に向ける。


 あ、この子、ロイドのパーティにいた魔法使いのレナだ。


「ケインが無能だから、ケインの処罰を決めてる所じゃない」


「ケインの処罰?」


 俺が首を傾げると、ガタイの良い男に背中をぽんと叩かれる。


「そうだぞ。せっかくいい所なんだ、びしっと決めてやれ」


「ロイドさん。パーティのリーダーとして、言ってあげてください」


 その男に続く形で、神官みたいな格好の女の子が続ける。


 あっ、こいつら盾役のザードと、神官のエミか。


「びしっと決める? リーダーとして……」


 三人の言葉を整理していく中で、俺は今置かれている状況を察した。


 これあれだ。今からケインをパーティから追放する流れだ。


 ちらっとケインを見ると、ケインは脅えるように俺を見ている。


 いやいや、おまえのスキルって、全然俺よりも強いじゃん。なんでそんなに脅えてんの?


 ケインのスキルは『支援』というものだ。


 このスキルを使った支援魔法が強すぎて、すぐに俺にざまぁをかます予定なのだが……そうか。このときはまだケインも本当の自分の実力に気づいていないだったっけ?


 きっと、今はこのパーティを追い出されたら行く先がないと思っているのだろう。


 本当はそんなことはないし、むしろこれから快適な生活が待っているというのにな。


 うん。それなら、きちんと送り出すためにもパーティから追放させてやった方がいいか。


「そうだな。しっかり言ってやらないとな」


 俺がそう言うと、ケインは諦めたように俯く。


 俺が口を開こうとしたとき、ふと重要なことに気がついた。


 ……あれ? ここでケインを追い出したら、俺はどうなるんだ?


 確か、ロイドにはケインにざまぁされて、闇落ちして死ぬ未来が待っているんだよな?


 え、俺死ぬの?


 転生したと思ったらすぐに死亡ルートに入るのか、俺?


 まてまて、それだけは嫌だ。


 ケインにざまぁされないで、俺が死ぬ未来を変えるためには、ケインをパーティから追放しちゃダメなんじゃないか?


 いや、それでも主人公補正のあるケインが近くにいたら、きっとすぐにざまぁ展開に持っていかれる。


 そうならないためには、どうすればいいか。


 そこまで考えたとき、俺は一つの妙案を思いついた。


「役立たずはこのパーティにはいらない。だから、このパーティから追放しよう」


 俺がそう言うと、ケインはうな垂れるようにして膝から崩れ落ちた。


 そして、そんなケインを見て笑い声を上げるメンバーたちの声を聞きながら、俺は言葉を続ける。


「今日をもってこのパーティから追放する…………俺をな」


「「「「……え?」」」」


 俺の最後の一言を聞いて、間の抜けたような声が何重にも重なって聞こえた。


 そう、俺は自分が生き残るためにパーティから追放することにしたのだ。


 ……自分自身をな。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【作品のフォロー】、【評価☆☆☆】で応援してもらえると嬉しいです!

※評価は作品画面の下にある『おすすめレビュー』の『☆で称える』から行うことができます!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る