第9話:俺が添い寝してあげるから。

舞子にビールの空瓶で思い切り頭を殴られた若い男の頭の傷は幸いにも

たいしたことなく舞子は無事解放された。

あとから駆けつけた上司のおとがめを受けた舞子の気分は最悪だった。

帰っていいからって上司に言われて病院を出た。


日も暮れた夜・・・外はまだ雨が降っていた。

舞子は自分を戒めるように雨の中を傘もささず近隣の駅まで歩いた。

ずぶ濡れになりながら・・・悲しくてただ意味もなく涙があふれた。


駅までたどり着いた舞子は、駅のベンチに腰掛けて呆然としていた。

日菜太に会いたい・・・そう思った。

そう思うと舞子は無性に日菜太に来てほしかった。


その頃、日菜太はマンションにいた。


「はい、もしもし?・・・あ、舞子?」


「日菜太・・・」


「なに?どうしたの・・・泣いてるのか? 舞子」


「すぐに来て・・・お願い・・・来て・・ 」


「分かった、すぐ行く・・・今どこ?」


「駅にいる・・・早く来て」


日菜太はスマホを切るとすぐにB◯W・Z◯で駅まで走った。

舞子になにがあったか日菜太には分からないままだったから胸がドキドキしていた。

急いでいる時にかぎって時間が経つのが遅く感じる。


駅のロータリーを回ったらバス停のベンチの端っこで舞子がずぶ濡れに

なって座っていた。

Z◯から降りた日菜太はすぐに舞子のところまで駆け寄った。


「ずぶ濡れじゃないか・・・めっちゃ、ぶちゃいくになってるぞ舞子」

「何があったの?」


舞子は日菜太を見て、すぐにしがみつくとまた泣き出した。


「ああ、それよりこんなところにいたら風邪引くよ・・・とにかく車に乗って」


理由を聞くのは後だと思って日菜太は舞子をZ◯に乗せて自分のマンション

まで走った。

マンションにつくと急いで舞子を風呂に入れた。


風呂から出てきた舞子は、少し落ち着きを取り戻していた。

で、日菜太はことの顛末を彼女から聞いた。


「酒の上での失態か・・・」

「気が大きくなったか?」

「酒はね・・・ほどほどにしないと・・・」


「だって許せないよな悪口雑言言われたから・・・」


ロクデナシの元彼も酒癖が悪かったから、舞子はその醜態をよく知っていた。

それは舞子自身も判っていたことだった。

人って時々羽目を外すもの・・・魔が差すもの。


「私、もうお酒は一切飲まない・・・」


「まあ、そんなに極端に決めなくても・・・楽しむ程度ならいいんじゃないか?」

「飲み過ぎなきゃね」


「でも・・・もしかしたら、もっと大怪我させてたかもしれないんだよ」


「相手の男だって悪いんだろ?、だからそんなに思い詰めないの」


「僕はさ、舞子自身に悪いことが起きたのかと心配したよ」

「君になにもなくてよかった」

「嫌なことは早く寝て忘れな、今夜はここに泊まっていいからね・・・」

「俺が添い寝してあげるから・・・まあ、いつもしてるけど・・・」


「ごめんね、日菜太・・・私を嫌いにならないでね」


「大丈夫だよ・・・嫌いになんかならないさ、あっち行けって言われたって

ストーカーみたいに付きまとってやるからな・・・」


舞子はこの時ばかりは日菜太がいてくれてよかったと思った。

その夜は日菜太の優しさに舞子は癒された。


つづく。

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