第5話:舞子の過去。

結局、オーベルジュのホテルの部屋で休憩はしたがなにも起きなかった。

日菜太は案外紳士的だった。

酔ってふらついてる舞子を無理やり襲ったりはしなかった。

舞子は日菜太がヤリチンじゃなかったことに少し安堵した。


酔いが覚めた舞子は日菜太に送ってもらって自分のマンションに帰って来た。


「おやすみなさい・・今日は楽しかったです」


「僕もだよ、舞子さん・・・ってことで来週また会えます?」


「はい・・・」


「次は舞子さんのマンションの前に車を横付けしますから・・・」

「じゃ〜またね、おやすみ」


真っ白のスポーツカーは颯爽と走り去って行った。


舞子はこれから日菜太との本格的な時間が始まるんだと感慨深げに思った。


さて舞子の就職した会社は、少し変わっていて社員同士が干渉しない。

みんな個別に自分の持ち場で働いていて誰かに余計な気をつかうことはなかった。


黙々と働いて、みんなそれぞれの家に帰っていく・・・それは味気ないと言えば

味気ないことのように思えた。

やはり人は誰かとコミュニケーションを取って生活にハリを持たないと孤独に

なっちゃう。

だからかこの会社は長くはいられないかもって舞子は思っていた。


その後、日菜太と舞子の関係は揉めることもなく喧嘩もなく順調よく行っていた。

舞子は最初は大富豪の息子の彼女ってよくないって私欲に走ったが今は、お金うんぬんよりも素直な日菜太その人に惹かれつつあった。


だから例の募集要項に書かれてあった、高額報酬はまだ日菜太からはもらって

なかった。

今は、それさえどうでもよくなっていた。


舞子と付き合い始めて約一ヶ月。

その間、日菜太は献身的に舞子をいろんな場所に連れて行ってくれた。

だから今は少し落ち着いている。

そしてこの頃には敬語もなく日菜太も舞子もお互いのことを呼び捨てにしていた。


その日はふたりはどこにも行かずに日菜太の高級マンションにいた。

舞子はマンションの窓から、下界に広がる風景を見ていた。

その風景はもう何度も見ている。

無機質だけど息ずいてる街・・・この光景を見るのが舞子は好きだった。


「ねえ、舞子・・・俺たちさ、付き合い始めてもう一ヶ月だよね」


「そうだけど・・・?」


「一ヶ月って早いのかな、遅いのかな?」


「なにが?・・・早いか遅いかって?なにが?」


「あのさ・・・俺たち中学生の恋愛じゃないんだから、いつまでもプラトニック

な関係って不自然だと思わない? 」

「ちゃんとそうだよねって確かめ合った訳じゃないけど俺たち恋人同士だよね?」


「そうだね・・・私は彼女募集に応募したその時点で彼女って言うか、恋人って

いうか・・・そう言う関係になるつもりではいたけど・・・」

「・・・・あのね、日菜太・・・ひとつ言っておかなきゃいけないこと

があるんだけど・・・?」

「その話を聞いて、これからのこと判断して欲しいの?」


「なに?なに?改まって・・・怖いな」


「もっと早く話しておきたかったんだけど、今頃になっちゃった」

「怖くはないよ・・・でも驚かないでね・・・私ね、以前デリヘルで働いてた

ことがあるの?」


「デリヘル?・・・デリバリーヘルス?」


「そう・・・お金が欲しくてね、普通のOLしてたらお金が貯まらないでしょ?」

「それでデリヘルで働いたの?」


「そんなにお金が必要だったの?」


「私ね、郊外でもいいから花屋さんしたくて、お店が持ちたかったの・・・」

「デリヘル嬢がんばって、ある程度資金貯まったからデリヘルはやめたんだけど」

「でもせっかく貯めたそのお金、ロクデナシ男が全部持って他の女と逃げ

ちゃったから・・・一文無しになっちゃって・・・」


「だから、日菜太とこれ以上の関係になる前に言っておきたかったの?」

「デリヘルやってたなんてこと嫌う潔癖な人もいるでしょ」

「自分の彼女が元デリヘルなんて許せないって人もいると思うからね」


「だから日菜太・・・そういうのダメって思うなら言って・・・」

「私、なにも言わずに身を引くから・・・」


「・・・・そうなんだ、ちょっと驚き・・・かな」

「でも・・・舞子・・・やっぱり君は面白いよ」


つづく。

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