10

 ベランダから飛び降りた零は、軽く首を傾けて目の前に立つ人影を見据えた。

「……やっぱり来たな。悪いけど、今ヒロイは取り込み中だぞ」

「ふぅん、そう? ま、関係ないよ。今その子の心の宝石が、この町で一番眩しいってレーダーに出てる。海賊としては、綺麗な宝石はちゃんと奪わなきゃ」

 銀色の髪をふわりと揺らして微笑むのは、眼帯に海賊帽、海賊団のキャプテン――ダイヤモンドだ。

 その両脇に、四人の船員が進み出る。

 蒼い煌めく髪にドレス姿のサファイア。

 緑の髪と、珍しく鋭い表情のエメラルド。

 優しい笑顔を浮かべながらも、剣に右手をかけた戦闘態勢のアクアマリン。

 同じく戦闘態勢をとる燃えるような赤い短髪のルビー。

 四人を引き連れたダイヤモンドは、かすかに口角をあげた。

「というわけで、おにーさん、そこ通して」

「悪いな。執筆中の小説家に、手を出させる編集者なんかいないんだよ」

 まったく悪いと思っていない口調で、零が言う。

「ふーん……。じゃ、実力行使だね。私たち、実はめちゃくちゃ強いから」

 次の瞬間ダイヤモンドを中心にして、爆風が巻き起こった。

 風に乗って一気に接近してきたアクアマリンが、すらりと剣を抜いて一閃する。

 零は軽く横に跳ねて避けると、その隙にベランダへ跳ぼうとしていたサファイアに向けて流れるような手慣れた動作で銃を構えた。

 パンッと破裂音が鳴り、サファイアの心臓に真っ赤なバツ印が描かれる。

「――!?」

 目を見開いて落下するサファイアを、剣を鞘に納めたアクアマリンが受け止めた。

 それを目で追うことすらなく、零はその場にしゃがみ込んで、飛んできたトランプをかわす。

「なーんだ、外した。僕、結構速い自信あったんだけどな」

 エメラルドがすっと目を細めた。その両手の指に、鋭いカードが挟まれている。

 零はそれに答えず、ふわりと右に移動した。

 零の顔があった空間を、ルビーの拳が勢いよく振り抜く。

「チッ、背中に目がついてんのか手前!」

「ああ、俺が背中を向けた隙にサボろうとする小説家もいるからな」

「――サファイアに何したの?」

 無表情で答える零に、凍てつく瞳でダイヤモンドが聞いた。

 零はエメラルドとルビーの攻撃を顔色一つ変えずにかわしながら、ちらりとダイヤモンドに視線を向ける。

「赤ペンをいれただけだ。キャラが平面的で作り込みが甘いほどよく効く」

 銃声が二発。

 エメラルドは避けたが、ルビーの心臓にバツ印が入る。

「じゃ、私には効かないね。私はちゃんと『過去』があるから。あの小説家は作ってくれなかったけど、この世界に来たら貰えた」

 風もないのに、ダイヤモンドの髪がなびく。

 眼帯をするりと外して、ダイヤモンドは微笑んだ。

「なんだってやるよ。やっと貰えた過去のためなら」

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