04

「はーっ、語った語った〜」

「あと二時間くらいほしいな」

 完全燃焼、すっきりした顔で学校に到着した私たちは、がらっと勢いよく教室の扉を開ける。

「おっは……よ、う」

 元気いっぱいに教室に踏み込もうとして、私はその場で固まった。

「……なに、これ」

「どうした?」

 私の後ろから教室を覗き込んだ零くんも、一気に切り詰めた雰囲気へと変わる。

 いつもなら先生が教室に入ってくるギリギリまで賑やかな教室が、おそろしいほど静まり返っていた。

 いつも友達の机の前で話している愛理あいりちゃんも、みわちゃんも、和菜かずなちゃんも。

 教壇を囲んでキャンプファイヤーごっこするのにハマってる、たかくんも、悠太ゆうたくんも、マサくんも。

 同じ顔で、同じ姿勢で、同じ方向を向いて、座っている。一言も話さずに。

「え、なにこれ……? 桜花おうか? どうしたの、桜花!?」

 一番の親友の桜花も同じ。

 肩をゆすると、ふわっとこっちを向くけど、いつもの可愛い笑顔はない。

 ゾクッとして、思わず飛びのいた。

「なに……どうしたの!? どうなって……」

「おい」

 何度も教室を見回す私の肩を、月垣くんがガッと掴んだ。

「お前の小説の設定を教えろ」

「えっ、設定?」

「そうだ。昨日空にいた五人は、?」

「何をするって……海賊だから、宝石を奪うんだよ。でも本物の宝石じゃなくて、ワクワクしてる子どもたちの、心の宝石なの。それを千個集めたら何でも願いが叶うんだけど……」

「――チッ、それか!」

「えっ、なんで? でも、宝石とられてもこんなふうにならないよ? むしろとられる前よりワクワクするしっ」

「だからだ。具現化した小説に矛盾があると、それを解消するために、新しい設定が付け加えられることがあるんだよ。この場合、心の宝石を取られたらワクワクする気持ちは消えるはずなのに、お前が考えた設定だとそれがない。だからそこを改変されたんだ」

「な――」

 私は言葉を失って、立ち尽くす。

 じゃあ。

 私のせい?

 皆が今、全然楽しそうじゃなくて、感情のない人形みたいになっちゃってるのは……私のせい?

「……でも」

 視界が揺れる。

 足がすくんで、動けなくなる。

「でも、ダイヤモンドたちは、そんな……子どもたちからキラキラした気持ちをとっちゃうような、悪い子たちじゃないよ……」

「だから、言っただろ。小説に矛盾があると、それは修正される」

「じゃあ、今の、皆は」

 いつも明るくて、遊び心を忘れないダイヤモンドも。

 高飛車なところもあるけど、仲間思いなサファイアも。

 楽しいことが大好きで、猪突猛進なルビーも。

 王子様みたいに優しいアクアマリンも。

 気だるげだけどほんとは強くてかっこいいエメラルドも、皆。

「悪者に、なっちゃったってこと……?」

 月垣くんが、金色の瞳で私を見据える。

「もし子どもたちから、心の宝石を奪うのが悪者だっていうなら、そうだな」

「違うっ!」

 私の喉から、信じられないくらい激しい声がほとばしった。

 足が勝手に床を蹴って、体が勝手に教室を飛び出す。

 自分でも、何をしてるのか分からない。

 階段を駆け降りて、昇降口を抜けて、正門を抜けて、さっき通ったばっかりの道を走った。

 違う。

 違うよ。

 皆、すごく優しいのに、楽しいのに、誰より子どもたちの気持ちをわかってくれる子なのに。

 悪者なんて、そんなわけない。

 絶対なるわけない。

 子どもたちから、楽しくてたまらないキラキラ輝く気持ちを奪っちゃうような、そんなひどいことはしないよ。

 だって、私が。

 私が。


 私が、宝石みたいな心を大事にするために、皆を創ったんだから。

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