第55話 とばっちり
会場設営の手伝いが終わって、自分の担当する場所に移動しようとしたら、山下さんに呼び止められた。
「石木、これ受付に持っていくの手伝って」
山下さんが指差した紙袋の束を、二人で持てるだけ持って受付に近づくとまだ始まってもいないのに人だかりができていた。
「何かあったんですかね」
「そうだな」
人の間をすり抜けて前に出ると、受付の近くに見たことのない男の人、その前に雫と白石さんが立っていた。
「どうした?」
山下さんが声を上げるとその声に男が反応した。山下さんと俺が近づこうとした時、急に男の握りこぶしが雫と白石さんに向かっていくのが見えた。
「しずく!」
慌てた山下さんの声と同時に雫に拳があたって、後ろに倒れてしまった。
「キャー」
叫び声もざわつき始めた周りも気にすることなく、男が更に二人に近づこうとしたところで山下さんが男の腕をつかんだ。
「何したんだ?」
「はっ?俺は、由依に用事があって」
「だから今、彼女に何したんだ!」
山下さんの気迫に男が怯んでいる隙に雫のそばに駆け寄って抱き起こす。
「俺は悪くない、その女が由依を庇うからだ。由依が俺のことを悪く言うからお仕置きをしようとしただけなのにじゃましやがって」
「バカじゃないの。なんであんたにそんなことされないといけないの」
雫の後ろに隠れていた白石さんは、倒れている雫の後ろに隠れるわけにもいかず俺の後ろに隠れて男に言い返している。
「自分の彼女を正すのは彼氏の仕事だろ」
「とっくの昔に別れたでしょ」
「俺は別れた覚えはないよ。プレゼントだって、君の望むものは全部あげたのに何が不満なの?」
「好きな人がいるって言ったよね」
「それは誰?こいつ?」
「…違うわよ」
「まあいいよ。そんなの一時の気の迷いだから、僕のところにいずれ戻ってくるんだし」
二人の会話が続く中、騒ぎを聞いた亀井先輩と佐藤先輩が駆けつけた。
「石木、久高は」
佐藤先輩が雫の体を支えてる俺に声をかける。
「それが気を失ってて…」
「何があった?」
「俺たちも何がなんだか、来たときにはその男が雫を殴って」
「殴ってなんかない、その女の肩に腕があたっただけだ」
「握りこぶしを振り下ろしたら殴るのと同じだろ」
男の身勝手な言い訳に怒りの収まらない山下さんが声を荒げた。
「とにかく久高を病院に」
「俺が連れてく」
山下さんの言葉を受けて佐藤先輩がいち早く久高を抱きかかえた。会社の人間が警察を呼んで、とりあえず男と白石さんと山下さんは、近くの交番で事情を聞かれることになった。
「石木、本田と一緒に久高の病院行ってくれるか?武史慌ててたから、久高の持ち物とか持っていってないだろ、頼む」
亀井先輩に言われて本田と二人で雫の運ばれた病院に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます