第54話 招かれざる人

「あの…こちらに女性の白石さんいらっしゃいますか?」

 高そうなスーツを来た男性が丁寧な物腰で受付の西田さんに聞いていた。

「失礼ですがどのようなご要件で?」

「あ、すみません。怪しいですよね。朝、彼女が忘れていったので…」

 そう言うと手に持っていた鍵を見せて、反対の手に持っていた紙袋を差し出した。

「これ少ないですけど、皆さんで召し上がってください」

 差し出された袋は、並ばないと買えない有名な洋菓子店の袋だった。

「お待ちください。久高さん、白石さん呼んできてもらえる?」

「はい」

 

「あれって彼氏かな?」

「そうなんじゃない、朝渡し忘れたって」

 白石さんを呼びに行く私に椿もついてきた。

「彼氏…ちょっと意外だよね」

「何が?」

「佐藤先輩、山下さん…どう考えても面食いでしょ」

「なにそれ」

「でも、まあお金は持ってる感じよね」

「なんでわかるの?」

「スーツは既製のものじゃないし、靴も高いのだよ。それにあそこのお菓子すごい高いんだよ」

「椿、すごい観察力」

「まあね〜じゃあ私担当の場所、先に行っとくね」

「私も終わったらすぐ行くね」

 

「白石さん、受付に来てください」

「え、何?」

「お知り合いの方みたいです」

「誰だろう、名前聞いた?」

 聞いてないと言うと文句をいいながら受付に向かう白石さんの後をついていく。

「えっ…」

 受付にいた人に気づいた白石さんが急に立ち止まった。

「どうしたんですか?」

「…」

「白石さん…?」

 立ち止まっっている私達に気づいた受付の男性がこちらを向くと白石さんがゆっくり後ずさりし始めた。

「由依、忘れ物」

 笑いながら、手に持っていた鍵を差し出した。

「どうして…ここが…」

「インスタ、載せてたよね」

 男性が近づいてくると白石さんは私の後ろに隠れてしまった。

「し、白石さん?」

 私が見えていないのか男性は気にせず私越しに白石さんに話し続ける。

「由依、戻ってきたならそう言ってよ、空港まで迎えに行ったのに」

「言う必要ないでしょ、関係ない人に」

「えっ!?彼氏なんじゃ…」

「違うわよ、元カレよ」

「一方的に言われても納得してないんだけど…これ僕の新しい部屋の鍵渡すの忘れてた」

 噛み合わない会話が続いて、周りにいた人たちもざわつき始めていた。

「どうした?」

 後ろの方から先輩達の声が聞こえると男性は露骨に嫌そうな顔をした。

「あの中にいるの?君に言い寄る人…」

 そう言うと手にしていた鍵を捨てて、白石さんの腕を掴もうと身を乗り出してきた。

「やめて、そういうとこ気持ち悪い」

 その言葉にカッとなった男性が赤い顔で拳を振り上げた。

「しずく!」

 山下さんの声が聞こえた時には私の体は強い衝撃で後ろに飛ばされていた。

 

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