第52話 許す?許さない?
「久高、言いたいことあるなら言っていいぞ」
山下さんの声がいつもより厳しめなのは、白石さんを怒るという役目のもとなのだろう。
「…もう、いいです」
「…いいのか?」「久高言わないと…」
二人が消化不良の顔をしている。本当なら怒っていいんだろうけれど、後輩という立場上それはハードルが高かった。私の代わりに山下さんや佐藤先輩が怒ってくれてることをふまえれば、これ以上何か言う必要もなかった。
「はい、大丈夫です」
はっきりと言い切った私を見て、山下さんと佐藤先輩が顔を見合わせて、小さく息を吐いた。
「…わかった、時間取らせたな」
先輩二人と白石さんを残して、会議室を出ると、いるはずのない椿が私の席で待っていた。
「おはよう」
「おはよう、どうした…」
「亀井先輩が新人3人に頼みたい仕事があるって一緒に来たんだけど、雫が会議室に呼ばれたから待ってた」
「ごめん、で亀井先輩は?」
「今、課長と話してる。雫こそ何で会議室に呼ばれたの?もしかして昨日の…?」
「うん、白石さんが謝ってくれた」
「ウソ!?」
「ホント」
「…ちゃんと文句言った?」
「それは…無理でしょ。でも山下さんに怒られたっぽいから、それでもういいよ」
「どこまで優しいの、私がかわりに行けばよかった」
「ケンカになるからだめ」
「怒っていいでしょ」
「だからもう怒られたって言ってるでしょ」
「そうだぞ、かなり厳しめに山が怒ってたから、久高ならともかく、本田が怒る必要はないぞ」
亀井先輩が課長との話を終えて、私たちのそばに立っていた。
「本田、久高を心配するのはわかるがお前がケンカするのは違うだろ」
「友達として腹が立つだけです」
「そうだな、気持ちはわかる」
「だったら」
「お前は白石の上司でもなければ、後輩だろ。言う権利があるのは直属の上司の山か、迷惑をかけられた久高だ。久高がもういいって言ってるんだから蒸し返すな」
「はいはい」
「ハイは1回」
「はーい」
椿と亀井先輩の掛け合いが終わると会議室から3人が出てきた。
「山、石木借りるぞ」
「わかった、後で」
そう言うと山下さんは白石さんを連れて部屋を出ていった。
「武史、久高にも手伝ってもらうから」
「了解」
佐藤先輩も後を追うように部屋を出ていった。
頼まれた仕事は、週末に行われる会社のイベントで配るグッズとチラシの確認だった。
「週末、休日出勤かー」
「その代わり、どっかで振替取れるんだよね?」
「そう言ってたけど」
「じゃあ、3人でどこか行こうよ」
「いいね、でも3人だと阿部が拗ねるかも?」
「確かに…じゃあ阿部ちゃんは有給使ってもらうか」
「4人いっぺんに休めるかな…」
「亀井先輩、4人いっぺんに休むと駄目ですか?」
少し離れたところでタブレットとにらめっこしていた亀井先輩が顔をあげた。
「仕事に支障がなければ問題ないぞ。どこか行くのか?」
「まだなにも決めてないですけど…」
「一度に休むなら、それぞれ指導の先輩に言って相談してからな」
まだもらえていない振替の話で騒いでるうちに亀井先輩に頼まれていた仕事が終わった。
「週末のイベントは会場集合だから、グッズとチラシは車出すやつに頼むけど、セッティングもあるから遅刻しないように本田わかったか?」
「私だけに言わないでくださいよ」
「お前が一番怪しい」
「まあ、否定しませんけど」
「久高、本田を頼むな」
「はい、任せてください!」
「しずく〜」
初めての外での仕事に3人とも浮かれていた。
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