第50話 小言とおいしいハンバーグ
最近、少なくなっていた佐藤先輩のお小言に声を振り絞って返事をすると両肩をつかまれた。
「お前を責めてるわけじゃない。自分でちゃんと自分を守れって言ってるの」
「…はい、すみません…頼りなくって」
「はー、だから責めてないって…悪い、俺の言い方がダメなんだよな」
「…」
「お前のこと頼りないなんて思ってないし、むしろ、あの短時間で仕上げた書類は見やすくて、山も課長たちも褒めてたよ。もっと自分に自信持てって」
「はい…」
「ただ間違ってることを違うって言えないと、今日みたいにお前に責任をなすりつけるやつもいるってこと。みんながみんなお前の味方じゃない時ももちろんあるんだから」
「わかって…ます」
「お前にしたら先輩に逆らう事自体、無理あるんだろうけど…それでも理不尽なことに対しては、きっぱりと言わないと」
「はい」
言葉の端々に私のことを心配してくれていることが感じられて、申し訳なさでいっぱいになる。
「小言はおしまい。さっ、なんか食べて帰ろ。あー、昼もあんまりだったから腹減った。久高、何が食べたい?」
「えっ、あっ…」
「何でもいいは無しな。なんか食べたいもの言って」
私の返事を見透かしたように言葉を続けながら先輩が大きな声で笑う。
「…ハンバーグ…がいいです」
「この近くにおいしい洋食屋あるから、行こう」
肩に置かれていた手が離れたと思ったら、私の手を握って店への道を進む。驚くのと同時に鼓動がありえないぐらい速くなった。
「ごちそう様でした。すごくおいしかったです。でもやっぱりおごってもらうのは…出します!」
洋食屋さんの帰り道、財布からお金を出そうとすると、いいからと財布ごと鞄に戻された。
「じゃあ、今度は久高のおごりでご飯な」
「はい。でも、高いのは…無理です」
「ハハ、新人にたかるつもりはないよ。コーヒーでもいいぞ」
「それじゃあ、安すぎます」
「この間、石木がうまいって言ってた会社の近くのランチ…知ってるか?」
「どこだろう、でもよく行ってるとこならわかります」
「そこでいいよ」
「はい」
「遅くなったな、送るよ」
「大丈夫です。まだ電車あるんで」
すぐにでもタクシーをつかまえそうな勢いの先輩を制止して、駅に向かおうとすると腕をつかまれた。
「わかった。タクシーは使わないから送らせて」
必死な顔の先輩が可笑しくて頷いた。
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて駅まで」
「う…ん。とりあえず駅まで、さ、行こ」
また、ゆっくりと歩き始めた私の横にそっと並んで歩く佐藤先輩の顔が車のライトに照らされて、思わず見惚れてしまった。
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