第49話 佐藤先輩との帰り道

 夕方、会議を終えた人達が何人か席に戻ってきたが、先輩たちを含め、上の人達はまだ残ってるようだった。

「石木たちは自分の仕事終わったら、あがっていいって言ってたぞ」

 声をかけてくれた人は、そう言って、またすぐ会議室に戻っていった。

「帰ろう雫」

 パソコンの前で集中していたら、渉と椿がいつのまにか立っていた。

「うん、あっ、でも…もう少しだけしておきたいから…」

「先週、先輩に頼まれてたやつ?」

「うん」

「手伝おうか?」

「1人で大丈夫」

「そっか、わかった。また明日ね、おつかれ」

「無理するなよ、おつかれ」

「うん、おつかれ」

 先週手渡されてる資料は、佐藤先輩に"木曜まででいいから"と言われてたけど、今日のようなことがあったらと思うと怖くて、早く仕上げてしまいたかった。どれくらい集中していたのか、自分のお腹の音におどろいて、パソコンから目線をはずすと部屋にいるのは私以外に2人だけで、終業時間から2時間以上立っていた。


「久高?まだいたの?仕事終わったら帰っていいって言ってあったろ」

 佐藤先輩の声が人の少ないフロアに響いた。

「はい…すみません、資料作ってたら夢中になってて」

「武史、仕事頑張ってる後輩に圧強すぎだよ」

「ごめん、そんなつもりじゃなくて月曜から無理すんなって思ったんだよ」

「ハハッ、まあ心配なんだろ。久高もう終わりにして、帰る準備しろ」

「はい」

「送っていくから、ちょっと待ってて」

「いえ、大丈夫です。すみません、すぐ帰ります」

「いいから待ってろって」

 大慌てで自席に戻る佐藤先輩を見て、亀井先輩は肩を揺らして笑っていた。

「まあ待ってやって、朝のこともあるし、本当に心配なだけなんだから」

「でも…本当に1人で大丈夫です。失礼します」

 パソコンの画面が消えたのを確認して、すぐに席を離れて部屋を出た。エレベーター前で待っていると、息を切らして佐藤先輩がきた。

「久高、待てって言っただろ」

「大丈夫です。1人でもこの時間なら、まだ全然平気ですから」

「だから、あー、もういいから一緒に帰るぞ」

 会社を出ると、駅へ向かう道の途中で佐藤先輩が話し始める。

「白石のこと…悪かったな」

「そんな…別に」

「俺がいない時に…山がいてよかったよ」

「…」

「山が怒ってるのを久々に見たよ。今回のことは山がきちんとさせるって言ってたから心配しなくても大丈夫だから」

「きちんとなんて…そんな」

「そんなって言うけど、今回みたいにしっかりとわかりやすい仕事してるなんてこと、そうそうないんだよ。今回はたまたま俺たちが頼んだ仕事を3人でやってたから白石の嘘がバレた。文哉が言ってたけどお前が半泣きで今にも謝りそうだったって」

「…ハハ、すみません」

「そういうとこだよ。お前のことだから自分が我慢すればとか思ってると思うけどな、そんなのお前のためにも白石のためにもならないから、やめろ」

「…はい」




 

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