第47話 白石さんの嘘に巻き込まれる
「ちょっと、それ見せて」
声が聞こえたと思ったら、白石さんに渡された資料が私の手から山下さんの手にあった。
「あっ、えっ、山下さん…ミーティング終わったんですか?」
「ああ部長と課長のミーティングに少し混じって報告してただけだから…で、これ、どういうこと?」
「…あの…えっと…作成を…久高さんに…頼んでて……」
「この資料の?っていうか、これ俺が頼んだやつだよね?先週の頭に渡して週末までって」
「あっ、いや、私、他の資料まとめないといけなくて…久高さんがやりたいって言うので任せてて…」
「俺が週末確認しようとしたら、他の人に確認してもらったから大丈夫って言ってたよな」
「それは…久高さんが大丈夫って言うから…信頼して…」
「確認しなかったのか?」
「…はい、大丈夫だと思って…まさかできてないとは…すみません」
頼まれたどころか今日初めて見る資料をまとめるなんてことできるわけないけれど、白石さんの嘘が本当になりつつある今、私が謝罪の言葉を口にしないと場が収まらないと諦めた時だった。
「久高」
久しぶりにちゃんと名前を呼ばれてドキッとしたけれど、上司としてのキツめの呼び方に緊張が上回った。
「この仕事頼まれたのはいつ?」
「それは…あの…」
言葉に詰まる私に痺れを切らして、白石さんに質問し直す。
「白石、この資料をいつ久高に頼んだ?」
「えーと、す、水曜にお願いして金曜までにって…」
「水曜か…水曜のいつ久高に渡した?」
「お昼…前…だったかなー」
「そうか、で金曜に確認した時、書類は少しも見なかったんだな?」
「…久高ちゃんが大丈夫って…言うので…」
「…よくわかった…石木、ちょっといい?」
会議室の準備を終えて戻ってきた渉を呼んだ。
「石木、先週は仕事をいろいろお願いしてたけど、火曜から頼んでた仕事あったよな?」
「はい」
何が起こったのかわかってない渉は、私の隣にきて不安な顔で答える。
「何を頼んだ?」
「はい、支社から届いたアンケートと市場調査の結果をまとめてました」
「終わったのは…」
「木曜の夜遅くまでかかりました」
「そうだったな…石木とあと…誰に頼んだかな?」
「本田と久高と3人でした」
「えっ」
白石さんが小さく声をあげた。
「そこに誰か来た?」
「来たのは進捗確認の佐藤さんと亀井さんと山下さんがそれぞれに…」
「うん、だよな…部署の端の会議室だから、3人がその作業してるのを知ってるのは俺たちぐらいだからな」
白石さんの顔が青ざめていく中、山下さんが更に詰めていく。
「白石、水曜の昼、クライアントと外に出たよな。俺と崎田と3人で」
「そうです…ね。あっ、渡したのは火曜の夕方だったかな…」
「石木、火曜は何してた?」
「火曜は集計を俺と本田がして、市場調査のアンケートのコメントの入力を久高がしてました」
「夕方、白石が来た?」
「いいえ来てません」
「ほら、外に出た時に…」
「休憩は、本田と久高が一緒に買い出しに行った時と佐藤さんが差し入れ持ってきてくれた時ぐらいで…」
墓穴を掘ってしまったとわかって、とうとう白石さんは黙ってしまった。
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