第46話 月曜の朝に起きた問題

 土曜は二日酔いでベッドから起き上がれなかった。日曜は飲みすぎた自分に猛省して静かに過ごした。月曜の朝はいつもより早く目が覚めて、家にいても落ち着かないので一本早い電車に乗った。コンビニで甘めのラテを買って、会社のロビーに着くとエレベーター前の壁にもたれていた人が体を起こした。

「おはよう、いつもより早いな」

「おはようございます、佐藤先輩…金曜は…あの…すみませんでした。…もしかして待っててくれてました?」

「いや、まあ…あんなに酔ったお前見るのはじめてだったから心配で…週末も連絡しようかと思ったけど、休みの日まで上司の声聞きたくないかと思って我慢した」

「…気を使ってもらって…ありがとうございます。土曜は二日酔いで動けなくて、日曜はぼーっとしてました。でも、もう大丈夫です」

「そうか、なら良かった。今日は少しバタバタするから、お前たちのことまでかまってやれないかもしれないから、朝だけでもと思ってな」

 二人でエレベーターに乗ると、閉まりかけたドアがもう一度開いて誰かが乗ってきた。

「おはよう」

 挨拶をしながら、山下さんが私の前に入ってきた。

「おっ、おはようございます」

「あれ、山、早いね。おはよう」

「武史も早いだろ。俺は朝イチ会議の資料で気になるとこ、手直ししたくて」

「ああ、俺も一応チェックしたけど…」

 二人の会話が始まって、蚊帳の外の私はなんとなく金曜の夜のことを思い出して…そうしてるとフロアについていた。

「久高降りるよ」

 声をかけられるタイミングで振り返った山下さんと一瞬目があった。あわてて目をそらした私は手にしていたカップを落としそうになって握り直した。

(きっと、もう……山下さんは平気なんだろうな…)

 私は、再会してから、ずっと、そばにいるだけでドキドキして…でも…私なんて、元カノのカテゴリーにも入ってない…そう思うだけで胸がギューと締め付けられた。

 

 月曜の朝はなんとなく慌ただしい。その上、今日は朝イチの会議もあって、会議室のセッティングと資料の準備でやることは山積みだった。資料のチェックをしていると白石さんが近寄ってきた。

「白石さん、おはようございます」

「久高ちゃん、ちょっといい?」

「あっ、はい」

 資料を手に立ち上がって挨拶すると、手にしていた資料を奪われた。

「これ私持ってくから、これ急ぎでまとめてくれる?」

 奪われた資料の代わりに分厚い資料を手渡された。

「はい…いつまでにですか?」

「今日の会議が始まるまでに」

「えっ、今日の会議って…」

 会議開始が10時で、あと1時間ちょっとでできる量には見えなかった。

「10時には間に合わないと思うんですけど…」

「えー、そこをなんとかお願いできないかな」

「いや、ほんとに…無理だと思い…ます…」

「どうした久高、白石。なにかあった?」

 横で会話を聞いてた人が気を利かして、近くにいた亀井先輩を呼んできてくれた。

「いや、これは、あの久高さんがやりたいって言うのでお願いしてたんですけど…」

「えっ、いや、それは…ちが」

「心配してたんですけど、やっぱりできてなくて…どうしよう。だから私がやるって言ったのに」

 いつのまにか私が資料を作ることになっていて、しかもそれを忘れたことになっていた。

「わ、私…あの…」

 どう説明していいかわからず、言葉がでなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る