第45話 酔ったのは誰のせい?
佐藤先輩と山下さんにかかえられてタクシーに乗り込むと後部席の距離感に更に酔いが増した。自分が自分じゃないみたいに重いまぶたが閉じていって、車の揺れが眠りを誘った。
「武史、彼女の家知ってんの?」
「ああ、仕事の遅くなった日に石木と2人を車で送っていったことがあるから…あっ、その先のコンビニを左に…」
頭の上で交わされる二人の会話を聞きながら、浅い眠りを行ったり来たりしていた。
「山はどこに泊まってんの?会社のウィークリーマンション?」
「ああ、始めはそうしようと思ってたんだけど、割に遠くて不便でさ、兄貴の住んでるマンションにおじゃましてる」
「へー、どのへん?」
「この近くかな…まあ、兄貴出張が多くて一人暮らしみたいなもんだけど」
「ふーん、いいじゃん。ウィークリーマンション遠いって、この前来た笠田さんぼやいてたから」
「ロンドン支社の人だよね?」
「1ヶ月の我慢だって言ってたよ。笠田さん家族ごとロンドンに行ってるから家ないしね」
「俺も実家にって考えたけど、ウィークリーより遠くてさ」
「どっちにしろ遠いのはしんどいよな。あっ、すみません。そこの角曲がってすぐの大きな公園の前で停めてください」
心地よい声の会話がとぎれて、タクシーのドアが開いたのか、夜の冷たい風が頬にあたった。
「久高歩けるか?」
頭では動かしてるはずの体は言うことをきかなくて、佐藤先輩の肩にもたれたまま、反対側を山下さんに支えられてタクシーを降りた。
「久高、家の鍵出せる?」
言われるがままカバンからカード式の鍵をかざすと大きなドアが開く。
「何階?」
「…5階です」
エレベーターに乗り込むと佐藤先輩がボタンを押して扉が閉まる。なんとか部屋までたどり着くとソファーに座らされた。
「何か飲むか?冷蔵庫開けるぞ」
佐藤先輩が冷蔵庫から冷えたペットボトルの水を取り出して、蓋を開けて手渡してくれた。閉じていた目を開けて、ゆっくりと一口飲むと心配そうに私を見る佐藤先輩と山下さんが見えた。
「すみません…迷惑をかけて…」
「いいよ、お前が無茶するとこなんて、なかなか見れないから、ある意味新鮮だよ」
「……」
「俺たち帰るけど、久高、ちゃんと戸締まりできるな?」
「…はい…」
小さい声で頷いた。
「じゃあ、山行こうか」
「…ああ…」
重い体を起こして、2人が玄関に行く後をなんとかついていく。
「すぐ寝ろよ」
「…はい、ありがとうございます」
「じゃあな、おやすみ。ベッドまでちゃんと行けよ」
佐藤先輩が出て、山下さんが一瞬振り返りかけて、また前を向いて出ていった。ドアが閉まってロックがかかると…ドアに背を持たれて2人の足音を聞いていた。
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