第44話 会はお開きです
「ここは俺のおごりで。久高送るから」
「…あっ、だっ大丈夫です」
佐藤先輩の言葉に反応したように山下さんがテーブルの下にある私の手を強く握って、私の心臓は壊れそうだった。
「次に行きましょうよー。久高さんは石木くんにまかせて、どうせなら本田さんも一緒に帰って、ねっ?佐藤さん、山下さんはうちに来て飲み直しましょうよ」
大胆な提案に反応したのは本田だけだった。
「白石さん、一時帰国で使うウィークリーマンションに先輩たち呼ぶんですか?すご~い」
「あはは、あんなボロいところに呼ぶわけないでしょ!あそこに長く住んでると病気になっちゃうから…今はうちの親が持ってるマンションに住んでるけど」
「すげー、持ってるマンションだって。白石、金持ちなんだな」
「そうですよ亀井先輩、白石さんは私たちとは住む世界が違うんですよ。狙いは二人で亀井先輩は論外みたいですけど」
「そうみたいだな…って、本田はっきり言うな傷つくだろ!!」
椿と亀井先輩のにぎやかな掛け合いを聞きながら、雫が俺にもたれかかったまま、お店の入口でタクシーを待っていた。
「大丈夫か?雫?」
渉が何度も聞いてくれるたび、大丈夫と言うけど…本当は全然大丈夫じゃなかった。椿のにぎやかな声を聞きながら、酔った頭の中はぐちゃぐちゃで、山下さんの悲しげな顔も強く握られた手も理解できなかった。
別れに苦しんでたくさん泣いたのに…やっと前に進んだのに…考えてもわからなかった別れの理由がわかった日、私は生まれてから一番酔っ払った。
「文哉は本田を、俺と山で久高を送るわ」
「え、私は?」
「お前、酔ってないだろ、それにここからすぐなんだから、石木頼んでいいか?」
「はい」
「えー、そんな佐藤さんか山下さんがいいのに…」
白石さんの声も虚しく亀井先輩が手配したタクシーが来て2台に分かれて乗った。亀井先輩の方に俺と白石さんと本田、もう一台にほぼ目の開いてない雫を抱えるように佐藤先輩と山下さんが乗って車は発車した。
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