第43話 振った相手に会いたい?

「で、その時山下さん酔ってどうなったんですか?」

 口ごもった亀井先輩に本田が食らいついた。本田が亀井先輩の顔を覗き込むと圧に負けると思ったのか目線をそらして後ろの佐藤先輩に助けを求めた。同じタイミングで白石さんからの猛アプローチに疲れた佐藤先輩と亀井先輩の目があった。

「文哉こっちくれば?」

 亀井先輩の助け舟に佐藤先輩がホッとして、すぐに立ち上がるとカウンターにやってきた。それに白石さんもついてきたので席の少ないカウンターから押し出されるように俺が立つと本田も文句を言いながら席を立った。なんとも言えない空気感の山下さんと雫のいる席に座ると質問する相手を替えた本田が山下さんに聞きたかったであろうド直球をぶつけた。

「山下さん、忘れられないって元カノに会いたいですか?」

「おい本田?何聞いてるんだよ。山下さんすみません、こいつ酔ってるんで許してください」

 焦る俺を全く気にしない本田が山下さんの顔を覗き込むと一瞬雫に目をやりながら、かわすように答える。

「本田ちゃん?」

「椿でいいですよ」

「じゃあ、椿ちゃん。椿ちゃんは自分が振った相手に会いたい?」

「えー、山下さんズルい、質問そのまま返さないでください!」

「ごめんごめん」

「でも…私なら…どうかな〜振られた相手には会いたくないけど振った相手はどうだろう…そもそも私、振ったことがないからわかんないです!」

「石木くんは?」

 山下さんが急に俺に話を振って、そのことに慌ててると本田が雫に矛先を替えた。

「雫は?振った相手に会いたい?」

「えっ…振った相手には…きっとよく思われてないから…会いたくはないかな…」

「じゃあ、振られた相手は?」

 少しの間があって、誰とも目を合わさないまま、ぼそっとつぶやく。

「…まだ好きなら会いたいけど…向こうは会いたくないよね…」

 そう言うと雫は目を閉じた。

「久高、平気か?」

 さっきから、ずっと気にしていた佐藤先輩がカウンターから声をかけると雫が目をゆっくりと開けた。

「…大丈夫です」

「久高さん、もう帰ったほうがいいんじゃない?」

 絵に描いたような棘のある言い方の白石さんに本田が掴みかかろうと席を立ちかけた。

「じゃあ、お開きにしようか」

「へっ?」

 佐藤先輩の言葉に亀井先輩が頷いて、グラスの残りのお酒を飲み干してマスターに目配せした。

「えっえっ、待って待って、私来たとこなんですよ。佐藤さん、久高さんだけ帰ってもらったんでいいんじゃないですか?同期が2人もいるんだから送ってもらってね!」

 白石さんが笑顔で俺や雫を見ながら言うと少し呆れたように佐藤先輩がため息をついてカードをマスターに渡した。


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