第42話 動揺してるのは誰?

「ねえ、久高ちゃん、あっちにいかなくていいの?」

「あっ、…はい、じゃあ…移ります…」

 白石さんの分かりやすい言い方は、私がジャマだと言いたいんだろう。そんなことは言われなくてもわかってるし、抵抗するほどの勇気は持ち合わせてない。いいタイミングだと半分腰を浮かして動こうとした。


「動くことないよ」

 言葉と同時に山下さんの右手が私の腕をつかんで引くと反動でまたソファーに腰掛けてしまった。

「白石、お前何言ってんの。久高も気にしなくていいから」

 佐藤先輩が睨むように言うと白石さんはふくれっ面で佐藤先輩の腕をつかんで駄々をこねるように甘えている。私はさっき山下さんに掴まれた腕が熱いまま、動くことができなくなっていた。


「後ろ、大丈夫なんですか?」

 亀井先輩に小声で聞くと、俺を見てニヤニヤしている。

「心配か?石木」

「あっ…はい」

「武史に対抗してみるか?」

「えっ…いや…あの…」

「あいつ、自覚してるか分かんないけど、まじっぽいから強敵だよ」

「はぁ…いや別に俺はそんな…」

「渉は入社したときから雫だよね〜。強がってると持ってかれちゃうよ」

「本田!何言ってるんだよ!!」

 横槍を入れてきた本田をにらむと俺ら2人を見て亀井先輩は大笑いしてる。

「まぁ本田にもバレてるのに、本人にバレてないのは、石木が隠すのが上手いのか、久高がよほど鈍感なのか…うーん後者が濃厚だな」

 俺を見て更にニヤニヤする亀井先輩と本田に耐えられなくて、残っていたお酒を一気に飲んだ。話題を変えようと気になることを亀井先輩に聞いてみた。

「山下さんの忘れられない人って…亀井先輩も佐藤先輩も知らないんですか?」

「うーん、全く…って言うか…付き合い始め?なのか付き合う前なのか、山が急に俺や俺の彼女…元カノに相談してきたことあって驚いたんだよ」

「何でですか?」

「それまでは女に不自由するタイプじゃないし、女切れたことないけど、どっちかと言えば女の子のほうが熱上げて告白されて付き合う流れが多くてさ」

「イメージができすぎる…もろ山下さんって感じ」

「でも結局、女の子のほうが自分のこと好きになってくれないことにしびれ切らして別れるのがほとんどで心配してたんだよね」

「えっ、じゃあその元カノは違ったってこと?」

「本田、そういうとこだけ食いつくね。

まっ今覚えば、そうだったんじゃないかって思うけど…誘いたいけど、どう言ったら断られないかなとかプレゼント何送ったらいいかとか中学生みたいなこと聞いてきてさ…」

「山下さんかわいい!!」

「そんなだからさ、上手くいったんだろうと思ってたんだよ、で今度紹介しろよって武史と言ってたら転勤話が出て…」

「だから…彼女に会ってないんですね…」

「ああ、NYに行く前は、仕事の引き継ぎとか手続きとか、雑事に追われてたから…。あいつ自分で希望して念願叶ったくせにつらそうで…俺らも心配してたんだよ。送別会っていうか同期で飲んだとき、あいつめちゃくちゃ酔って」

「酔ってどうしたんですか?」

「いや、これ言うと怒られそうだからやめとくわ…」

 なんとなく亀井先輩が口ごもった。

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