第33話 白石さんのくせ者ぶり

「なんかあった…?」

 俺の隣に座った雫が、小声で俺に聞いた。前の席に座った本田も妙ちきりんな顔をしてた。

「でも私に釣り合おうとして、頑張れば頑張るほど可哀想になっちゃって、私からバイバイしちゃったんです」

「白石」

「ハイ」

「それ以上はお前の価値が下がるよ」

 佐藤先輩が低い声でぼそっと言う。

「俺も、あんまり昔の男悪く言うのちょっとなー、自分と付き合ってもこの子こうやって別れた後言うんだろなーって考えたら怖いよね」

「私そんなつもりで言ったんじゃないですよ、事実を言っただけです!」

 強気で亀井先輩に言い返す白石さんを見て、片岡さんの言葉の意味をはっきり理解した。


 

 歌い終わって席に戻ると難しい顔の3人と楽しそうに話す白石さんがいた。渉に何があったのか聞いても答えてくれないまま、白石さんに厳しいことを言う佐藤先輩と亀井先輩に驚いてると、白石さんが負けじと亀井先輩に言い返してた。そんなやりとりにあっけに取られてるうちに2次会は終わった。3次会に行きたいと駄々をこねる白石さん、酔いすぎだからとなだめる山下さんと他の人達を少し遠いところで椿と見ていた。

「やっぱりくせ者だった」

「椿…」

「ああいうところも一緒、自分が1番ってところも自分の意見を聞いてもらうのが当たり前なところも」

 かなり酔ってたはずの椿の顔が急に悲しげになって思わず抱きしめた。

「椿が悪いんじゃないんだから、早く忘れないと、それに白石さんは似てるだけで別の人でしょ」

「うーん、そうなんだけど」

 

 佐藤先輩が白石さんをタクシーに乗せて、他の人が一緒に乗り込んだ。佐藤先輩も乗ると思ってたのか白石さんの声が聞こえる。乗り込んだ人に佐藤先輩がお願いしてドアが閉まった。

「佐藤さんも大変だな」

 隣に立っていた白石さんの一期上の立川さんがつぶやいた。

「何が大変なんですか?」

 立川さんの前にいた渉が振り返って聞く。

「あっ、いやー、言っていいのかなー」

 赤い顔の立川さんが躊躇してると

「そこまで言ってやめるのずるいっすよ」

 渉が食い下がった。

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