第30話 2次会の白石さん
カラオケのお店で部長の両隣に座った椿と私。椿の隣には亀井先輩、私の隣には渉が座っていた。何曲かご機嫌に歌っていた部長が、奥様からの電話であわてて帰り支度を始めると課長も送っていくからと一緒に帰っていった。
上司のいなくなった2次会は急にフランクになって、お酒も歌もにぎやかにすすんでいった。いつもはケンカばかりの椿と亀井先輩が仲良くお酒を飲んでいるのを見て、なんだか微笑ましくて笑うと椿と目があった。
「雫、なんか私おかしい?」
「ううん、今日は2人仲良くてかわいいなって」
「おい久高、先輩にかわいいはないだろ」
「すみません、でも、いつもケンカ…というか怒られてる姿ばかり見てるからか、なんか嬉しくて」
「確かにいつも怒ってる亀井先輩か、ふてくされてる本田しか見てないな」
「っていうか、亀井先輩が今日みたいに優しかったら、私ふてくされたりしませーん」
「それ言うなら、俺も、お前が俺の話ちゃんと最後まで聞いてたら怒んねえだろ!」
「まあまあ」
「あっ、そうだ山下、来週さぁ…あれ、トイレかな?」
入口近くに座ってたはずの山下さんがいなくて、隣に座っていた白石さんも見当たらなかった。
「あれ」歌ってる人がマイクを叩き出して、音が聞こえなくなった。もう一本のマイクを渡して、壊れたほうをフロントに持っていくために席を立つ。俺もと言って佐藤先輩がついて来てくれた。金曜の夜だからか店内は賑わっていた。
「あの女の子を介抱してた男の人かっこよかったね」
「ホント芸能人かと思っちゃった。一人だったら声かけるのに」
すれ違いざまに聞こえた会話が何となく引っかかりながら、エレベーターの角を曲がるとその二人はいた。
「えっ…」
立ち止まった私は名前を呼ばれるまで動けずにいた。女の人の細い腕が男の人の首にまわされて…女の人はキスしてもらうのを待ってるみたいだった。「久高?」私の視線に気づいた佐藤先輩も二人に気づいて声をあげた。
「お前ら、イチャイチャするなら、もっと目立たないとこでやれ」
佐藤先輩の声に驚いて二人が同時にこちらを見る。
「うそ!佐藤さん、こっ、これは違うんです。あの…私ちょっと酔っちゃって、山下さんに介抱してもらってて」
必要以上に慌てる白石さんを佐藤先輩が冷ややかな目で見る。
「そんなのどうでもいいけど、ここは会社も近いから会社のやつらに見られると、また変な噂立てられるぞ。はめ外すのもほどほどにな」
佐藤先輩の言葉が終わる前に白石さんがこちらに走ってきた。
「マイク替えてもらってきます」
山下さんがこちらに来る前にフロントへ駆け出していた。
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