第27話 夢だったことにしときたい…
ハイペースな椿と亀井先輩につられてか、いつもはゆっくり飲む渉まで飲んでて、巻き込まれたように飲みすぎた。このままだとさすがにやばいと席を立った。お手洗いの前にある待つためのベンチに座ると大きく深呼吸をする。本当は私の席から見える山下さんと白石さんに少なからずモヤモヤして…その気持ちの行き場に困って、飲み過ぎてしまっただけのことだ。少しだけ頭を冷やそうと目を閉じた。通り過ぎると思った足音が止まって、誰かが私の横に座った。
「大丈夫か?」
誰なのかは目を開けなくてもわかる…けど何を話せばいいのかわからなくて目を開けることができなかった。お酒の匂いと彼の香りが届いて、胸が苦しくなる。
「…会えると思ってなかったよ…雫に」
小さく聞こえた自分の名前がさらに胸を締め付ける。
「あー、山下さん、ここにいた!もう」
ヒールの音が近くなって、私の隣で止まった。
「あれ、久高ちゃん?寝ちゃった?もうだめじゃないですか山下さん。久高ちゃん休んでるの邪魔しちゃ、さあ席に戻りましょ」
目を開けると白石さんに腕を引っ張られて、部屋に戻っていく姿が見えて、目を開けたことを後悔した。もう一度目を閉じて夢だったことにしようと思った時、誰かの手が頭の上に置かれた。
「お前が泣いてるの、もう見たくないんだけど」
いつものトーンで、そう言われて初めて自分が泣いてることに気づいた。
「お前がなんで泣いてるのか聞かないほうがいいんだろうな」
「佐藤先輩…」
「酔ったのか?」
首を横に振る私を見て先輩が笑った。
「まぁ、酔ってるやつは大体みんな酔ってないって言うけどな…」
「大丈夫です」
「お前の大丈夫は聞き飽きた、大丈夫って言う時は大体大丈夫じゃないし、我慢してることばっかりで、誰かを頼ろうともしないし、そのせいでいっぱいいっぱいになってる」
「…はい」
「今回のプロジェクト、白石が俺のチームに入れてほしいって言ってきたんだけど…久高が山下のとこに入って、また我慢したら気づいてやれないから甘いかもしれないけど手放せなかった、ごめんな」
「え…?」
「いつもいっしょの俺じゃなくて、山下の下についてやるほうが勉強になることもわかってるんだけどな…」
山下さんのチームに入った時のことを考えると佐藤先輩の判断に安堵する。
「しーずーくー、あっ、佐藤先輩、私の雫とらないで〜」
ふらふらになりながら、こっちに向かってきた椿の声に驚いて、2人して立ち上がった。
「俺の最強ライバルが来たな」
ニヤニヤしながら椿からのパンチを受ける佐藤先輩は、さっきの先輩とは違って笑顔が見えた。
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