第23話 思いがけない再会

 山下さんの挨拶が終わって、その横にいた女性が一歩前に出る。

「白石です。久しぶりの日本ですごく嬉しいです。この間の研修で日本に戻れなかったんですが、その代わりにプロジェクトに参加させてもらえて光栄です。よろしくお願いします」

 綺麗な色の長い髪をふわっと巻いて、女の子らしさを全面にだしたような美人が話し始めると男性陣はわかりやすくざわついた。

 会いたいと思っていた時は会えなかったのに、こんな風に再会するとは夢にも思わなかった。私のことなんて…もう覚えてないよね…? ショートだった髪はロングと呼ばれるほど伸びて、化粧も上手くできるようになった。

 ーあの頃の私じゃないー 

何度も心の中でとなえて目立たないようにするのが精一杯だった。


「あの人が例の白石さんだろ?…雫?」

 俺が話しかけてることに気づかないのか雫が下をむいたままで動かない。部長が話を終えて部屋をでていくと、課長がこれからの流れを説明し始めた。

「雫?大丈夫?どこか具合悪い?」

「…ううん、大丈夫、どこも悪くないよ」

 不安げに答えた顔は、とても大丈夫には見えなかった。

「ねえ、山下さんって、かっこよすぎだね雫」

 隣にいた本田が雫に声をかけると

「…そうだね」

 か細い声で答えて、力なく笑った。やりとりの後、本田が俺の脇腹をつついた。

「ねえ渉、雫おかしくない?」

 雫のことに関しては、敏感な本田も雫の異変に気がついた。


「……ということで、予定では3ヶ月をめどに進めていくが、長引くかもしれないのでみんな気を引き締めて、取り掛かってくれ。佐藤と山下をそれぞれリーダーにして2チームで進めてもらいたい。亀井はどちらにも関わって、調整やフォローを頼むから、そのつもりで」

 課長が説明を終えると、佐藤先輩が入れ替わりに話し出す。

「業務と同時進行なのでしんどくなったら、すぐに言ってください。チーム分けは3人で決めて、午後に言います」

「本田、先週の案件とりあえずお前1人でまとめれるな」

「ウェッ?ああ、はい、多分…」

「俺に用がある時は会議室に来い!わかったな」

「はーい」

 2人のなんとも言えないやりとりを聞いていた山下さんが苦笑する。

「だいぶフレンドリーな後輩だな」

「フレンドリーって…ものは言いようだな、要は失礼って言いたいんだろう」

「仲いいってことだろ?」

「いい部下がついて、楽しそうだよ」

 会話を聞いただけで3人の仲の良さが伺える、そんな雰囲気の中

「石木、久高」

不意に名前を呼ばれた。


「山、白石、俺がついてる2人で石木と久高。雑用は2人に頼んでいいから、白石、わからないことは久高にきくように」

 後ろにいた俺達を指さして、みんなの視線がこちらに向いた時、山下さんは俺の隣にいる雫を見て、ハッとして息を飲んだ。

「佐藤さん、私のことバカにしてます?新人ちゃんに教えてもらうことなんてないですよ〜」

「白石、お前えらくなったんだな。でも久高はお前が新人の時より優秀だぞ」

「えっ、そうなんですか、すご~い。よろしくね久高さん」

 白石さんの言葉に雫が顔をあげた。

「よろしくお願いします」

 小さな声で言うと頭を下げて、感じてるはずの山下さんの視線を避けるようにまたうつむいてしまった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る