第22話 話題の人は…

 1週間の始まりの月曜、ゆるい週末の余韻を引きずらないために気合を入れようと、コーヒーショップでいつもは飲まないブラックを頼んだ。最近ずっと甘いのばかり飲んでたせいか苦みが思ったよりガツンときて朝から別なダメージを受けた。

「甘いのにしとけば良かった…」

 小声でつぶやいて、歩き始めると後ろから名前を呼ばれた。

「雫!おはよ!あれ?いつもこっちからだっけ?」

 椿がちらっとこちらを見て、手に持っていた私のカップを取って口にした。

「にが!なんでいつものカフェラテじゃないの?」

「フフ、今日一つ早めの電車乗れたからコーヒー買ったんだけど、気合入れようと思ってさ、ブラック頼んじゃった」

「これ、かなりくるね」

「うん、今ダメージ受けてたとこ」

「休みたいかも…」

「それができたら苦労しないんだけど…」

「だよね、よし頑張って、行こう!やっぱり苦い」

「なんでさらに飲んでんの?」

「雫を見習って、気合入れてる」

 くだらない会話をしながら、会社に着くと、部署のフロアが大勢の人で溢れていた。

「おはよう、渉も阿部ちゃんもどうしたの?なんでここに?」

 大勢の女の人が入口にいるせいで押し出されたようにいる2人も理由がわかってなかった。

「おはよう、人が多すぎて入れないんだよね、何かあったのかな?」

 阿部ちゃんの声に反応して、人だかりにいた柏木さんがくるっと後ろを向いた。

「阿部くん、おはよう」

「おはようございます、柏木先輩」

「同期勢揃いだね〜、みんなもおはよう」

「おはようございます、何かあったんですか?」

「めちゃくちゃかっこいい先輩がいてね。NYから戻ってきたからみんなで見に来たの」

 佐藤先輩が言っていた同期の人のことだと私も渉もわかっていて何も言わないでいると椿の目が光る。

「なに?雫知ってるの?ずるい男前なら、私にも教えてよ」

 前にでないと見れないと言って、椿が私の手を引いて、人だかりを抜けると佐藤先輩と亀井先輩の間で楽しそうに笑ってる人が見えた。

 

 あんなふうに笑う人を知っている…私が大好きな人で…私を夢中にさせて…突然別れを告げた人だ…。


「なんだ!この騒ぎは!始業時間過ぎたらみんな遅刻扱いになるぞ、自分の部署に戻りなさい」

 部長と一緒に来た課長が大声を上げると入口を塞いでた女性たちは文句を言いながら散り散りになって、部署の人間だけが残された。

 部長と課長が前に立って並ぶと部長が話し始めた。

「今回のプロジェクトに参加してもらうためにNYから来てもらった山下くんと補佐で来ている白石くんだ。佐藤くんや亀井くんは同期だからよくわかってると思うが知らないものも多くいるから、自己紹介いいかな?」

 課長の後ろに立っていた人が一歩前に出た。

「山下です、以前はここにいる佐藤や亀井と一緒にここで仕事してました。本社は久しぶりで顔ぶれも変わってるのでかなり緊張してます。短い間ですがよろしくお願いします」

 

 そうだ…こんな声だった…耳に届く声が今にも私の名前を呼んでくれそうで…待ってしまう自分がいた。

 





 

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