第21話 片岡さんの謝罪
飲み会でのことがあって以来、片岡さんに会社で会うことは少なくなった。他の女の先輩達からも嫌味を言われることがなくなって、あんなに辛かったのが嘘みたいに思えてくる。
佐藤先輩は、来週の準備のせいで席にいないことが増えて、与えられた仕事を2人でなんとかこなしていた。部署では来週から来る人の席のためのスペースを課長が必死で考えていた。
金曜の朝一番に総務の指示で運び込まれた机を、設置するための大掃除をして、配置をして、全部終わったら15時を過ぎていた。
指揮をとっていた片岡さんが私の隣にあらわれた。
「…久高さん…これまでのこと…ごめんなさいね…」
小声で申し訳なさそうに頭を下げた。
「もう大丈夫です、気にしないでください」
「ありがとう…私ね、白石さんのことがあって、なんかバカみたいに佐藤くんのことが心配になって、おかしくなってたの…本当にごめんなさい」
棘々した片岡さんが消えて、純粋に佐藤先輩を好きな片岡さんがいた。
「片岡、済んだ?久高ちょっと借りても大丈夫?」
2人の会話の隙間を狙ったように、佐藤先輩が声をかけた。
「うん、今、終わった。後でうちの課長が確認に来るから、何かあるなら課長に直接言ってもらうと助かる」
会話が終わると、片岡さんが戻っていった。
「久高、大丈夫だったか…?」
「えっ!?全然大丈夫です。この間のことも謝ってくれました」
「そっか、良かった。悪いやつじゃないんだ。同期だからほっとけないし…でも、もし何かあったら、すぐ言えよ」
「はい」
「来週から俺の同期ともう一人、白石が戻ってくるんだ」
「関口さん達の同期のですよね…?」
「ああ、この間の研修に参加させられなかったから、そのかわりプロジェクトに同期のヤツの補佐の形で参加させることになったらしい」
「そうなんですね」
「前のこともあるから、女の子達とは仲良くできないかもしれないから、久高仲良くしてやって」
「はい…」
片岡さんが部屋を出る時に、佐藤先輩に聞こえないように小声で言う。
「久高さん、白石さんには気をつけて…あまり近寄らないほうがいいと思う」
私を心配するように言った言葉が悪意とは思えなくて、でも仲良くしてほしいと言った佐藤先輩にはとてもじゃないけど言えなかった。
前よりも、もっと…それ以上に苦しむことになるなんて思いもしないまま…片岡さんの忠告を守らなかった自分を後悔した。
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