第19話 恋したのは私だけ
2人で見に行った映画は、話題の作品だったはずなのにほとんど覚えてなくて、隣にいる先輩を思いっきり意識し始めた自分に笑ってしまった。
「雫ちゃんって呼んでもいい?」
帰り道にそう言われて、頷いた後、恥ずかしくて先輩の顔が見れなくなっていた。
白田先輩が心配しなくても…本気になったのは私の方だった。彼にはこんな小娘を落とすなんて簡単なことだったろうな…あの頃にはわからなかったけど今ならそう思える。
出会ってから、付き合うようになって世の中で言う幸せは全部教えてもらった。付き合って知ったのは、彼の周りには彼を狙ってる人がたくさんいて、元カノもモデル級の美人が多かったこと…つまりはわたしは分不相応だってこと…だった。直接や間接的に嫌味や悪口を言われることもあったけど、いつも彼が守ってくれていた。そばにいる彼は優しくて、別れを告げられるまで、ずっと先の未来を2人でって…一緒にって…話してたのに…それすら夢だったんだと思うしかなかった。
「ごめん、別れたい」
別れは突然で、予測すらできてなかった私にはどうしたらいいのかわからないまま、終わった。
少ない言葉で終わってしまった恋は、私の心を傷つけて…ずっと引きずったままで苦しかった。心配した友達に紹介や合コンにも連れていかれたけど、そんな気にはとてもなれなくて、ただ学校に通う毎日だった。そのうち就活がはじまって忙しいのが救いになった。絶対無理と言われた今の会社に入れたのも、彼を忘れたくて…ただがむしゃらに頑張っただけで、彼と別れてなければ、未来は違っていたかもしれない。
会社に入社して、同期にも恵まれて、ひたすら仕事を覚える毎日でも彼を忘れるのは難しかった。その上、教育係の先輩は、どこか彼と雰囲気が似てて、優しくて、モテる人だった。近寄ったら危険だと、バカな私でもわかる…案の定、周りの女性陣に釘を刺され、近寄らない努力をしてた。
仕事中は、新しく覚えること、間違いなくこなすことに必死でかろうじて思い出すことはなかった。でも同期たちが彼氏の話や恋の話になると自然と避けるようになっていた。
傷が癒えたかどうかもわからないほどに触れないようにしてても…少しのことで思い出して溢れてしまうほど、自分の気持ちに掛けたはずの鍵は壊れやすかった。
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