第18話 幸せな気持ちのわけ
「俺、ちょっと、電話かけてくるわ」
隣にいた先輩がスマホを手に席を外すと前の席にいた白田先輩が話しだす。
「久高、先輩のこと、本気で考えろよ」
4人で何度目かのご飯に来て、いきなりの言葉に戸惑う。
「…からかわれてるだけとかじゃないんですか?」
「まあ、最初があんな感じだから、そう思うのは仕方ないけど」
「でも…特に何か言われたわけでもないんですけど」
「先輩が女の子のこと聞いたり、探したりなんてレアだからね。モテる人だけど自分から行くタイプじゃないから」
「でも綺麗な彼女がいたって言ってなかった?」
横にいた由美がしれっと口を挟む。
「いつも綺麗な人連れてたけど、女の人に告白されて、押し切られて付き合うのがほとんどでさ」
「あれだけ男前なら、そうなるよね」
由美がニヤニヤしながら私を見る。
「雫もさ、前の彼氏と別れてだいぶたったよね。もういい頃でしょ」
「いい頃ってなによ…って言うか2人共楽しんでるでしょ。好きも付き合おうとも言われたわけでもないのに何をどう考えるって言うの」
「とにかく、ちゃんと考えろよ」
お酒の入った白田先輩は、赤い顔でさらにビールを飲みながら自分の責任かのように言い放った。
「どうした白田、酔ったか?大丈夫か?」
戻ってきた先輩が席に座る。
「久高ちゃん、送るよ。2人は一緒に帰るんだろ?」
少しお酒の匂いのする先輩は、人懐っこい笑顔で私の肩に手をやる。
「どうぞどうぞ」
2人がコントのように言うのを笑いながら
「どうも」
そう言って2人と別れて店を出た。
「先輩…酔ってます?」
「いや全然、あれくらいじゃ酔わないよ」
「今日はごちそう様でした。みんなの分まで払ってもらって…大丈夫なんですか?」
「心配してくれてる?一応社会人だし、バイトしてる大学生よりは持ってるよ」
「はい…お言葉に甘えます」
「でも、まだお酒飲めないから、つまんなくない?ノリで飲んでる子も多いのに」
「お酒飲みたくないわけじゃないんですけど…怖いんですよね」
「怖いって…何が?」
「酔うと自分がどんなになるかわからないし…」
「そんな心配?ハハ、面白いね。じゃ誕生日来たら俺んちで飲もうか?吐いてもいいようにスウェットにでも着替えて」
「いや、吐くほど飲むつもりはないんですけど…おかしなこと言ったら恥ずかしいのでいいです」
「どんなのでも引き受けるけど?」
本気なのか、からかってるのかわからないけど、楽しそうな先輩をみてると幸せな気持ちになっていた。
「久高ちゃん、なんか嬉しそうだね」
「先輩楽しそうだなーって…それ見てたら何か…嬉しくなっちゃって」
「あぶない!」
賑やかな団体の人たちが前から来て、ぶつかりそうになった私の肩をスッと引き寄せてくれた。思いがけず近くなった距離にドキドキさせられる。
「大丈夫?酔っぱらい多いから、気をつけて」
肩にあった手が戻って、何事もなかったように振る舞う先輩は、女性に慣れていて…やっぱりからかわれてるよなーと頭の片隅で思ってた。少しずつ先輩に惹かれてる自分にも、そばにいられる幸せにも気づかないままでいた。
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