第13話 石木くんの元彼女は年上
戻ってきた佐藤先輩は、座ってすぐに残っていたジョッキのビールを一気飲みした。すぐにおかわりをする先輩の様子がおかしいのに気づいたのは亀井先輩と俺ぐらいだろう。本田にまとわりつかれてる雫は、さっき泣いたのか少し目元が赤くなっている。
「大丈夫?」
「…うん」
「佐藤先輩と…何話したの?」
「あー、うん…同期や佐藤先輩にもっと頼ってもいいんじゃないかって…」
「うん」
「辛い時は吐き出せって…」
「うん」
「それだけ?」
「…えーと…」
空を仰ぐように上を見て、残っていたお酒をぐいっと飲んだ。
「前に振られた話…かな」
「雫の?」
「…うん」
「…渉は…前の彼女って…なんで別れたの?」
「えっ、ハッ?急に何?心臓に悪い」
急な質問に飲んでたビールを吹きそうになる。
「えーと…うーん、彼女の就職決まって、むこうは地元に帰ったんだ。年上だったから、俺まだ学生で…就活始まったら、なかなか会えなくて…それでかな」
「自然消滅?」
「いや、彼女に気になる人ができたって言われて、振られた感じかな…俺も自分のことで精一杯で、彼女を構う余裕もなかったし、仕方ないといえば仕方なかったんだけど」
「辛くなかったの?」
「それは…好きだったから…やりきれないとこもあったよ…。でも亀井先輩みたいに彼女のサインに気づいても…なんとなく自分で言い訳して、都合よく解釈してやり過ごして、離れていってる彼女の気持ちに目をつぶってたから
」
「…うん」
「彼女が話があるって言った時、とうとう来たかって…何となくわかったんだよね」
あの時を思い出して、少し切なくなった気持ちを言葉にすると、おかわりで来たハイボールに口をつけた。雫は話を聞きながら、伏し目がちに細いブレスレットを触っている。
「雫とこんな話をしたの初めてだよね?」
「…そうだね…少しだけ…避けてたかも」
研修の時、夜みんなで話をしててもそういう話になると、自然と席を離れたり、歓迎会で先輩たちに聞かれても笑って誤魔化してたから、ただ単にそういう話が苦手だと思ってた。
「俺で良ければ、話聞くよ…でも、あんまり参考にはならないかも…ハハ」
笑う俺と一緒に笑った雫は、いつもの雫に戻っていた。
「しずくー!二次会行こー!!」
本田の声が部屋中に響いた。
「だーかーら、お前声が大きい!」
亀井先輩が本田の髪の毛をグシャグシャにして怒る。
「文哉、お前の声も変わんないよ」
佐藤先輩の一声でみんなが笑った。
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