第12話 雫に彼氏はいませんけど

「石木、久高って彼氏いないんだよな?」

「はい、そう言ってました」

「なんかあったのかもな…じゃないとあんなに過敏に反応しないだろ」

「そうかも知れないです」

「あいつの言うことはもっともなんだけど…男も思うほど強い生き物じゃないんだよな…」

「そうっすね…」

 しんみりしてる俺たちの間に、かなり酔った本田が割り込んできた。

「暗いですよ、盛り上げましょうか?」

 脳天気なセリフに亀井先輩が吹き出した。

「みんなお前みたいに単純だと楽だな」

「なんですか、心配してきたのにバカにしてます?」

「違う違う。いい意味で楽だってこと」

 仲良さそうにじゃれ合う亀井先輩と本田を見ながら、雫と佐藤先輩が気になって仕方なかった。

 

「お前にしては、珍しくペースが早かったんで、心配してたら…」

 お手洗い近くのベンチに座って、前を向いたまま、私の頭に手を置いて話す佐藤先輩の横で、酔った頭がぐらぐらしてた。

「佐藤先輩の彼女は…幸せ…ですね…優しくて…」

「どうかな…俺は好きになるとまわり見えなくなるから、文哉みたいに彼女のサインに気づいても気づかないふりするかもしれないけどね…で、俺は彼女いる前提か?」

 笑いながら、頭にあった手をおろして、私の顔を覗き込んだ。

「お前にそんな顔させてる奴って、どんな奴?彼氏はいないって言ってたから…元彼?」

 笑ってたはずの先輩の顔が真顔で、隠そうとしてることを全部見透かされそうになって、あわてて下を向いた。

「言いたくないなら言わなくていいよ。単なる興味だし、お前みたいないい子と別れる奴がいるんだなっていう…」

「そんなに褒めても何もでませんよ」

「ハハハ、そんだけ言えれば大丈夫か」

 うつむいた頭にまた佐藤先輩の温かい手がのる。

「あんまり溜め込むなよ。辛い時は吐き出さないと、同期でもいいし、俺でもいいから。片岡のこともそうだけど、何も言わないとわからないんだからな」

 置かれていた手が頭をポンポンとされると溜まっていた涙が頬をつたった。


「…もう大丈夫だと思ってたんです。彼氏は?って聞かれた時…」

「思い出す奴がいたわけだ…」

「…だから亀井先輩のこと聞いて、勝手に終わらせるのってずるいって思っちゃって…」

「でも文哉のとこは別れようとしてる彼女の気持ちを知ったから、あいつは自分から引いたんだよ」

「そうなんですね…お互い納得して別れたら、もっと違ってたのかな…」

「お前は、納得いかないまま別れたってこと?」

「前ぶれも何にもなくて…別れようって」

「理由聞かなかったの?」

「電話で…一方的に言われて…ごめんって…そのまま電話切られちゃって」

「それはひどいな」

「私だけが好きだったんだなーって思ったら、それ以上聞けなかったんです」

「今でも忘れられない元彼か…強敵だな…」

「佐藤先輩?」

「みんなのとこに戻ろっか、もう少し飲みたくなった」

「はい」

 佐藤先輩の後について、部屋に戻ると、抱きついて甘えてくる酔っぱらいの椿と心配そうな渉がいた。







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