第8話 食事会にあらわれた人は
「片岡、前もこういうことあったよね?あの時いろいろ噂が出たけど、証拠があるわけじゃないし、噂だったから何も言わなかった。今回は少なくとも3人が聴いてる。久高に言うのも今日が初めてとかでもないよね?」
亀井先輩だけでも嫌だったはずなのに、当の本人があらわれたから、片岡さんの顔色は青から白に変わりつつあった。
「久高、お前は何も言わなくていいよ。話は後で聞く。片岡、これ以上何かする気なら俺にも考えがあるから」
「…佐藤くん…そんな白石さんのことは違う…」
「片岡、こいつが怒ったら俺でも止められないよ」
「同期に何かしたいわけじゃないよ、わかるよね?」
「…ごめんなさい」
下を向いて片岡さんは自分の個室に戻っていた。
「…とりあえず部屋に戻ろうか」
うつむいたままの雫が顔をあげた。
「私、お手洗い言ってから…戻ります」
「俺も」
「ちゃんと戻ってこいよ」
佐藤先輩が雫の肩に手を置くと少しだけ笑ったのを見て、自分の不甲斐なさを痛感した。
渉と部屋に戻ると、さっきとかわらず騒いでる椿の両隣に関口さんと浜沖さんが座っていて面倒をみてくれている。奥の席で亀井先輩と佐藤先輩に手招きをされ、佐藤先輩の横に座らされた。
「なんとなく俺と2人でいることを避けているのは気づいてたよ。でも新入社員で緊張もあるだろうし、男性が苦手な人もいる、でも石木や阿部、課長にも普通だったからそれはないなって」
「いつ、片岡に言われたの?」
言っていいのか、わからなくて黙ってると渉が口を開いた。
「もうばれたんだし、ちゃんと言わないと終わらないよ」
そんなことはわかってるけど勇気がでない。
「石木は知ってたんだよね?」
「総務に言った時、言われてるのを初めて聞きました」
「…」
「お前が黙ったまま、片岡をかばってたら、今は良くてもまたお前みたいに苦しむやつがでてくるよ」
話そうと思うより先に涙がでてしまった。
「あー、佐藤さん!雫泣かさないでください!私が許しませんよ!!」
椿が大きな声を上げて、こっちに来ようとして両隣の二人に止められた。
「泣かしてないから」
「お前、それぐらいで飲むのやめないと明日仕事にならないぞ!!」
亀井先輩の言葉にわかりやすく頬を膨らます椿を見て、思わず笑ってしまった。
「久高やっと笑ったな、もう泣くな。言いたくなければ無理には聞かないよ。まだ月曜だし、ここらでお開きにしよう」
佐藤先輩がいつものように私の頭に手を置いて優しく言ってくれる。
「本田帰るぞ!送ってくから支度しろ」
「嫌です!雫に送ってもらいます」
「いいから」
亀井先輩に強引に腕を掴まれ、連れて行かれる椿と入れ違いに浜沖さんと関口さんが佐藤先輩の横に来ていた。
「俺たち本社組の男は何も知らなくて、後で噂で聞いたんです…白石のこと」
「でもいまだに信じられなくて」
2人が話しだした白石さんという人が片岡さんの言っていた"あの子"なんだろうか。
「久高や石木にはわからない話だな」
「関口といっしょに教育係でついてた子がいろいろあって孤立したんだ。俺のストーカーなんて噂まで出て、そんな事実はなかったんだけど、そのせいで片岡達がいろいろ言ってたみたいで」
「俺たちも気づかなくて…まあ、あいつはそんな弱音吐くタイプでもなかったから」
「今回、また教育係で女の子につくってなった時、一度は断ったんだけど、人が足りなくて仕方なくな…気をつけていたんだけど、ごめんな」
佐藤先輩が謝ることなんてないのに、申し訳なさでいっぱいの私の肩を渉が抱いていてくれて、安心でまた涙が落ちた。
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