第4話 ランチ

「これ新入社員が全員出す書類、氏名住所確認したら押印して出して」

 総務部の片岡さんがイライラしながら、書類を投げるように雫に渡す。

「それと久高さん、あんまり佐藤くんに近づかないようにね。最初に言ったと思うけど忘れないように!」

 言ってる意味がわからない俺が首をかしげているのに、雫は素直にハイと書類を受け取りながら答えてた。


「なあ、近づかないようにって…どゆこと?」

 総務部をでて、2人並んで歩いてる時に聞くと少しだけ雫の顔が歪んだ。

「佐藤先輩や椿には言わないでくれる?…ここじゃ、言えないから後で話すね」

 会社の近くのランチの美味しいカフェに少し早めに席につくことができた。

「いつも待たないと入れないのに、今日は先輩のおかげで早く休憩に入れてラッキーだったね」

 総務から戻ると佐藤先輩が外に出るタイミングだったので少し早いけど昼休憩にしていいと言われた。

「どうする?俺今日はパスタの肉ランチにしようかな、雫は?」

「私はパスタの魚にする」

 注文して待つ間、雫はゆっくりと話しだした。

「佐藤先輩、人気あるんだよね…会社の中でファンクラブとかもあるらしくて」

「はっ?ファンクラブ?ウソだろ…すごいな…まぁ確かにかっこよくて、優しくて仕事できるからわからなくもないけど」

「それぐらい人気ある人だから一昨年、新人の子が2人ついて、女の子のほうが先輩の優しさを勘違いして、それで問題になったって」

「問題って?」

「うん、私も人から聞いた話だし、問題になったことが何かわかんないんだけど…」

 話の途中でランチが来て食べ始めた。

「でね、私が先輩につくってなった時、片岡さんと他の女子社員の何人かに…佐藤先輩に必要以上に近寄るな…優しくされても勘違いするなって…」

「なんだよ、それ…」

「あっ、でもね、だからじゃないけど、佐藤先輩の優しさとかフレンドリーなとことか、そういうの聞いてなかったら、勘違いしてたかもしれないし」

 佐藤先輩の雫に対する態度は、勘違いしてもいいと思うけど、どうやら届いてないみたいだ。

「片岡さんは佐藤先輩と同期で心配なんだって、それで会うとああやって注意されるの」

 ランチを食べ終えて、食後の飲み物が来ると雫が大きく息を吐いた。

「今まで誰にも言ってなかったから、何か…誰かに言えてホッとしてる。でも、ごめんね、渉には嫌な話だよね」

「俺は全然平気だけど、本田とかに相談すれば良かったじゃん」

「椿はまっすぐな子だから、私がそんなこと言われたって聞いたら文句言いに行っちゃうでしょ」

「佐藤先輩には?」

「言えると思う?」

「まぁ無理か」

「佐藤先輩も納得できなかったり、理不尽なことに対して厳しい人だから、近寄るななんて言われたって知ったら怒りだしそうでしょ」

 コーヒーを口にして、俺を見てニコッと笑った。



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