第3話 同期のマドンナです
混んだエレベーターの奥の壁に押し込まれた俺と雫、その前に佐藤先輩がいた。部署のある10階について扉が開いても人が動かない中 "降ります” と声を出した先輩が雫の手をつかんで "石木、久高降りるぞ” と強引に人を割って進んで行く後をついていった。
「今日、人多くなかったか?」
「確か、今日から本社研修で人が来るって総務の子が言ってました」
「ああ、3年目のか」
さり気なく雫の手を離して、並んで歩く2人の後ろを歩いてると
「佐藤さん!」
大きな声が廊下に響いた。
「関口、うるさい。聞こえるから、もう少しボリューム下げろ」
色黒の大きな体の人が軽やかに佐藤先輩の前まで来るとニヤニヤしたまま、立ちはだかった。
「お前、その図体で前に立ったら、誰一人通れないだろ」
「佐藤さん、冷たすぎです!1年ぶりなんですよ!会いたかったっす!」
「だから、お前暑すぎだって、研修だろ、こんなとこで呑気にしてていいのか?」
「大丈夫っす!佐藤さんに挨拶しようと思って早めに来たんで…で、このかわいい女性はどちら様で…?」
「今、俺がついてる新人、久高と石木」
「えっ!えっ!久高さんって今年の新人のマドンナ?」
「なんだよ、それ、久高お前マドンナなの?」
「いえ、そんなの聞いたことないです」
今年入った同期の中で、雫は人気No.1で、マドンナと呼ばれてる。それを本人に言うやつがいなければ、本人が知ってるはずもない。
「うちの支社に入ってきたやつが、俺が今日本社に行くって言ったら"いいな~、久高さんに会いたいな~"って言われて、どんな子かと思ってたんです!」
「お前モテるんだな」
意地悪そうに言う佐藤先輩の目が優しげでまたモヤモヤしてると、急に課長に3人とも呼ばれて慌てて部屋に入った。
「来週からプロジェクトに佐藤が参加する関係で、2人も一番下で手伝ってもらうことになった。雑用がほとんどだと思うが実際の仕事の流れとかかなり勉強になると思う。忙しくなるから、佐藤は今週中に今抱えてる仕事終わらすか他の人に振っとくように」
課長の話が終わって、自分の席に戻ると、阿部が待ち構えてた。
「渉、おはよ、何の話だった?」
「なんか佐藤先輩の下でプロジェクトの雑用手伝うみたい」
「すごいじゃん」
「阿部は?」
「何も聞いてないけど、柏樹先輩が絡めば俺もあるのかな?」
「あると思うよ、いっしょにできるといいな」
「だな…まあ、頑張れ。それより新入社員は総務で受け取りがあるから、昼までに来いって、雫も」
隣でパソコンを立ち上げてた雫も頷いた。すぐに始まった朝礼の後、2人で昼近くまでパソコンとにらめっこしてると佐藤先輩と亀井先輩が話ながら部屋に入ってきた。
「久高、石木、総務の片岡が2人よこせって連絡入れてきたけど」
「あっ」「あっ」
仕事に夢中で総務に行くのをすっかり忘れていて、2人で顔を見合わせた。
「昼までなんだろ、片岡うるさいから、早く行って」
佐藤先輩に言われて慌てて席を立った。
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