第2話 教育係の先輩2人

「あれ久高?石木も、お前たちもここで飲んでたの?」

 座敷のある2階から、にぎやかに降りてくる団体の中にさっきまで話していた教育係の佐藤先輩と亀井先輩がいた。にこやかに声をかけてくれる佐藤先輩とは対照的に、ほぼほぼ出来上がってる本田を見つけた亀井先輩がジロッと視線を移して、目が合うと本田がとっさに雫の後ろに隠れた。

「お前、それで隠れてると思うほど、子供じゃないよな?」

 その声に応えるように半分だけ顔を出して、頭をペコっと下げる本田を見て、佐藤先輩がたまらず大笑いする。

「史哉、会社じゃないんだから、圧が強すぎ」

「佐藤、亀井、行くぞ」

 他の人に声をかけられて、あわてて

「お前ら、ほどほどにな…ってもう出来上がってるから、人に迷惑かけないようにな。史哉行こ」

 佐藤先輩は近くにいた雫の頭に手を置いてから、亀井先輩といっしょに店を出ていった。

「あー、焦った。なんか酔い冷めたわ」

 雫の後ろに隠れてた本田が自分のハイボールを飲み干して、阿部の飲んでたカシスソーダも飲み干した。

「あっ、俺の、なに飲んでんだよ、本田ー!」

「カシスソーダって、女子力高すぎなんだよー!でも、いいな〜私も頭ポンポンされたい」

「亀井先輩に?」

「違うー、佐藤先輩に!雫に優しいよね」

「俺にも優しいよ」

「そうかー、万民に優しい。あいつに佐藤先輩の垢を飲ませてやりたい」

「お前、それ言うなら爪の垢を煎じてだろ!意味変わってくる」

「どっちでもいい、わたるー、教育係変わってー、あいつあげるから」

「いやお前にその権限1ミリもないから」

 そんなことを言いながら、本当は俺も気になってる佐藤先輩の雫に対する態度。誰にでも優しい先輩で、男の俺にもイライラすることなく丁寧に教えてくれる。他の人と同じように雫にもしてるはずだけど…男の勘?絶対にそれだけじゃない気がする。そんな先輩にモヤモヤしてる自分も、雫のことが気になってしょうがないのを隠してるから偉そうには言えないけど…。


「石木、久高、金曜大丈夫だった?」

 月曜の朝、混雑したエレベーターホールで待ってると、佐藤先輩が後ろから声をかけてきた。

「おはようございます。大丈夫…って言っていいのかな?」

 佐藤先輩は、苦笑いの雫と俺を交互に見て笑う。

「本田がやらかした?それとも阿部?少なくともお前ら2人ではなさそうだな」

「そうですね…大変でしたと言うしかないんですが…ハハ。それより、金曜のって会社のなんかだったんですか?」

「ああ、あれね、今度ちょっと大きなプロジェクト立ち上げることになって、軽い打ち合わせのあとの決起会ってとこかな。新人達も仕事覚えてもらうために、手伝ってもらうことになるから、そのつもりで」

 言葉が終わる前に開いたエレベーターの中に吸い込まれるようにその場にいたほとんどが流れ込んだ。

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